何も起こらない話。でも心の中では大きな何かが起こった話。

雪国の冬のひとコマを描いた短編です。
主人公のひと言ひと言に、厳しい季節を日常として暮らさねばならない者の倦怠と心の疲れが滲み出ています。
空の色や水の温度、白い吐息、肌の感覚で伝えられる描写と、冷え切った重たいものに心を引きずられてしまう主人公の内面が重なります。
でもたった一つの些細な物事で、その心は何かを取り戻し、違った景色を見ることができるようになり……。
表面的には何も起こらない話。でも心の中には大きな何かが起こっている。
そんなひとの心模様を雪景色になぞらえて丁寧な筆致で切り取られたお話です。
読んだ後は知らずに口元が微笑んでいると思います。読んでよかったです。

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