短い言葉で綴られた二十の歌の中に繊細な機敏が込められた作品です。夜の商売や社会の片隅に生きる人たち。そんな大人の世界を見つめるひとりの少女が、また自分も大人になっていく。その人生の中で一番近い存在であろう母に対する、苦くも愛おしい気持ち。目の前に鮮やかな情景が浮かび上がり、母の声、煙草や香水のにおい、懐かしい味などが五感に訴えかけてきます。ひとつの人生をなぞるような深く渋味のある世界にたっぷりと浸ってみてください。
自分が何気なく書いた寺山修司さんの事から、まさか20連の短歌が生まれようとは。いやはや脱帽です。異世界転生や悪役令嬢が多いカクヨムの世界では異質かもしれませんが、自分は支持しますよ。このアングラな世界には、劇団天井桟敷で寺山さんを支えてきたJ.Aシーザーの音楽がよく似合います。
内容が濃いですね。一連の流れが「小説にしても良さそう」な物語性を含みながらも「いや、短歌だからこその濃縮された味わい深さなのかも」とも思わせる。秀逸です。