分かり合えない者達は、どこへ向かうのか――。

 『竜を追う人』に登場する「竜」は、ある人たちにとっては食料としての価値があり、ある人たちにとっては信仰の対象となっています。

 食料として「竜」を狩る者達、作中では「竜追い」と呼ばれているのですが、彼らは自分たちの身体を生かすために「竜」を捕まえ殺します。
 しかし、「竜」を信仰の対象としている者達は、心の拠り所にしているため、その存在を尊いものとし生かしているのです。
 よって二つの考え方は常に対立しており、お互いが歩み寄って分かり合うことはありません。

 物語は上記の考え方を主軸に進んでいくのですが、よく練られた話だなと思います。
 主人公の八神が「竜追い」になった経緯や、彼とともに「竜追い」として仕事をしている者たちの考え、また「竜」を信仰の対象としている少女の考えに触れることで、この二つの対立は永遠に解決できるものではないと思うと同時に、それは私たちの社会に当然のように潜んでいる出来事を投影していると気がつきます。

 今生み出されている物語の多くは、エンターテインメントとして楽しめるものを前提としているように思いますが、「物語」にはこの作品のように、現実世界にある問題を「物語」に置き換えて、読者に考えさせるという働きもします。それは現実問題を直接捉えることができないものを、「物語」を介して私たちは学んだり考えたりすることが出来るということです。

 そういった意味でも、『竜を追う人』を多くの人にお薦めしたいです。
 

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