今作は、竜を狩る者、竜を崇める者、両方の思想世界をそれぞれ生きる人々が登場します。
主人公の男性は、竜狩りを生業にしており、それで生活を営む者。
その者は、竜を信仰する少女と出会い、そこからそれぞれの世界が交差する物語です。
私はこの話を読み、自分自身の世界にも通じるものを感じ、「ああ、そうだよな」と改めて気が付かせてもらった物語となりました。
人々がその世界を生きる上で、どうしても対立してしまうものは必ずと言っていいほどあります。
衣食住に置いても、自分自身が何を楽しいと思えるのかも、何を良いと思えるのかも、好みまですべてに置いて、そう言えるかと思います。
そんな自分自身と同じような考えの人々が集い、生活をし、日々を生き抜いているわけです。
そんな己の世界があるように、また己とは違った世界も存在する。
その世界が折り重なって複雑に絡みあっているからこそ、世界は成り立っている。
自分の世界があるのは、そんな別の世界があるおかげでもあることを、いつも忘れないでいたいな、と改めて気が付かせてくれた素晴らしい物語でした。
とてもおすすめです。
竜を追う狩り人。当然彼らは竜を殺す存在だ。妻のために、子どものために、暮らしのために。その理由は様々だが、その間には竜を殺すことに恩恵を受け、生を繋ぐ数多の存在が見受けられる。
それに対して、竜を崇める者がいる。守る者がいる。
そして、竜そのものがいる。
どちらが正しい。どちらが悪い。
このものがたりに出てくる双方の立場に、安易に善悪を突きつけることはできません。
それぞれにそれぞれの理由がある。
そして、その立場は、簡単に逆転する。
被害が加害になり、加害が被害になる。
それは世の理なのかもしれません。
ですが直視し難いもの。
この作品はそれらを読み手の前に鮮やかに描きだします。突き出します。
わたしはファンタジーの可能性のおおきなひとつに
「現実世界での課題を、架空世界に置き換えることでより際立たたせ、抽出する」ことがあると考えていますが、この作品はまさにそれでした。
だからわたしにとっては、これこそファンタジーです。
ご一読あれ。
きっと新たなファンタジーの可能性を、読み手は知るでしょう。
『竜を追う人』に登場する「竜」は、ある人たちにとっては食料としての価値があり、ある人たちにとっては信仰の対象となっています。
食料として「竜」を狩る者達、作中では「竜追い」と呼ばれているのですが、彼らは自分たちの身体を生かすために「竜」を捕まえ殺します。
しかし、「竜」を信仰の対象としている者達は、心の拠り所にしているため、その存在を尊いものとし生かしているのです。
よって二つの考え方は常に対立しており、お互いが歩み寄って分かり合うことはありません。
物語は上記の考え方を主軸に進んでいくのですが、よく練られた話だなと思います。
主人公の八神が「竜追い」になった経緯や、彼とともに「竜追い」として仕事をしている者たちの考え、また「竜」を信仰の対象としている少女の考えに触れることで、この二つの対立は永遠に解決できるものではないと思うと同時に、それは私たちの社会に当然のように潜んでいる出来事を投影していると気がつきます。
今生み出されている物語の多くは、エンターテインメントとして楽しめるものを前提としているように思いますが、「物語」にはこの作品のように、現実世界にある問題を「物語」に置き換えて、読者に考えさせるという働きもします。それは現実問題を直接捉えることができないものを、「物語」を介して私たちは学んだり考えたりすることが出来るということです。
そういった意味でも、『竜を追う人』を多くの人にお薦めしたいです。
弱肉強食の自然社会。
今作品は、竜を狩る者と竜を見守りたいとする少女のお話。
通常であれば竜が勝つのだろうが、この世界の人間たちは知識を駆使し、協力し、見事に竜を狩るのが日常だった。
この物語は、そんな当たり前の日常にで過ごす竜追いの八神だったのだが、ひょんなことから竜を信仰する少女、イサナと出逢って……。
竜の肉を「当たり前」のように食べる者。
それを「理由があって」止めようとする者。
生きているうえでは、現実世界でも似たようなことが起きてしまっている現代。
難しくも、関係を深めないといけない世の中でもあり、とても考えさせられる作品だと感じました。
自分の生活の「当たり前」が他から見たら「当たり前ではない」
そういうテーマの元で見ると、また違った価値観で楽しめる作品になってます!
竜という荒々しい生き物が森を闊歩する。
その竜を追い生活の糧にする人々もいれば、竜を神として祀る人々もいる。
そんな世界の物語です。
これから読まれる方のために申し上げておくと、この物語は決して「都合の良いファンタジー」ではありません。
わかり易いレベリングもないし、きらびやかな勧善懲悪もない。
むしろとても人間臭くて生々しい世界です。
だからこそ、物語からは鮮烈な手触りを感じることができます。
それは葛藤のザラつきであり、苛立ちの刺々しさでもあり、安らぎの丸みでもあります。
竜追い達のゴツゴツした手の感触でもあるでしょうし、竜の鱗や骨の硬い反発かもしれません。
読むほどに世界の感触は、きっとあなたの心を波立てていくでしょう。
その波は物語が持つ力。
繰り広げられる命を懸けた愛憎、その剥き出しのエネルギーが作者さんの手で丁寧に込められた証左です。
さて、ここまでお読みいただけたならば、どうぞ歩みを止めずに竜の住む森の中へとお出かけくださいますように。
読み終わったあとにはきっと、この世界の姿をもっと見たくなっていることでしょう。