これは人が紡ぐ物語。
緻密に編み込まれた世界は異世界として成立し、そこに生きる人々には肉があり血が通っています。この異世界に生きています。
主人公は二人の女の子。
1人は非力な貴族令嬢であるレイネリア。
もう1人は人智を越えた力を有する天人地姫、ミストリア。
プロローグでも語られる天人地姫の力は神の域に至っている。
けれどミストリアはその力を誇示する事もなく、己の役割と礼節を重んじる1人の少女だ。
一方、レイネリアには特別な力はない。
ホーリーデイ家に産まれた魔法も剣も使えない、ただの少女。
そんな二人が旅を通して識る物はどれ程あるだろうか。この異世界は完成されているけれど、この二人の女の子が歩む世界は未完成なのだ。
これから二人が歩み、紡いでいく物語。
それはきっと、良質なファンタジーを望む貴方が求める一作となる事でしょう。
まず、プロローグが、長いです。
それも、最近よくある、モノローグでどんどん語ってゆくような個人視点的な展開ではなく、対立する2つの軍という、俯瞰視点からの場面展開。
そしてそこから結構ガッツリ、王国について、帝国について、関わる一族、血脈について……この世界についてのあれこれがプロローグ内で入ってきます。
そんな中で登場する、2人の主人公となる少女たち。
時代背景を重視した構成になっており、非常に古典的というか、少なくてもネット小説ではあまり採用されない手法で書かれていると、私は思いました。
そして、そんなプロローグを経て、2人の少女は外の世界へ。
第一章「疫病」では、物語が進むにつれて起こる、とある村の事件をきっかけに、かなりホラーな展開になっているなと感じました。
第二章「別離」では……いま、読んでます!えっ?別離しちゃうん?せっかく2人で旅してるのに!ええやん!仲良いし、2人でこのまま、旅したらええやん!!(←個人の見解です笑)
……というわけで、ハマっております笑
最強の力が目の前にあれば、人はどう思うだろうか?
当然、我が手中に納めたいと願うだろう。
では、その力に意志があればどうだろうか?
あからさまな行動は、自らにその脅威を向けることになるだろう。
では、どうするだろうか?
『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』である。
プロローグは、そんな駆け引きが垣間見られる。
これは、人智を越えた力を持つ天人地姫のミストリアと、その天人地姫を支えるホーリーデイ家のレイネリアの物語である。
天人地姫のミストリアは、次の天人地姫を身籠るために封禅の儀に旅立つ。本来、天人地姫一人の旅であるが、ミストリアと深いつながりがあるレイネリアは、陪従として共に行く。
そんな二人は、怪しい事件と遭遇する。
消えた村人。
それを調べに行った者も、次々と亡くなっていく。
事件は、新たなる敵の影を映し出す。
おそらく、この旅は、本人たちの思いとは別に、大きなうねりの中に巻き込まれていくことになるのだろう。
人以上に人を思う優しき天人地姫は、この見え隠れする悪意の中で自らの色を失わずにいられるのだろうか?
魔法も剣も使えぬレイネリアの支えが鍵を握っているのであろう。
今後の二人の旅にさらなる波乱があることを願い、楽しく読み進めていこうと思う。
この作品は、”文学”として仕上げられたハイファンタジー作品です。今時の作風を採り入れつつも、隆盛を極めるラノべとは一線を画した文体に滲む古さは、作品を安売りしない、文学としての矜持を感じさせます。
例えば、作品の中で『想念の浸潤』という言葉がさらっと出てきますが、難しい言い回しの言葉でさえも、そこにあって然るべきものになっています。おそらく作者は、文学に対して深い造詣を持つ方なのではないでしょうか。古い作品も新しい作品も知る、そんな知見があるように思います。
図書館で手に取った古い文献を紐解いた時、そこに記された異世界に吸い込まれ、そこで生きている人々と共にその世界を生きていくような、そんな気持ちにさせられる作品に仕上げられています。
今はまだ第一章が終わったところなので先の話になりますが、いつか最後まで読み終わり、パタンと分厚い本を閉じ、再び図書館の棚に戻す時が楽しみに思えて仕方がありません。いつかまた本棚から誰かが手に取り、この作品を読み耽る時が来るはずです。これは、そう思わせる文学作品です。
……と、ファンタジーをほとんど読まない自分でも感じ入ってしまった作品です。酩酊感のある風景描写から、ヒロインであり主人公であるふたりのモノローグまで、堅確かつ情動あふれる筆致で活写されます。なんというか基礎体力が違うというか、完全に横綱相撲……相撲もほとんど見たことないんですが、そんな感じです。
進行度としてはプロローグと1章が終わったところですが、どちらも白眉の出来です。1個ずつ単体で完結できるぐらい、エピソードの立て方が濃密で立体的です。区切りがあまりないようで、どこからでも入って気軽に読み進められる印象です。
ネタバレになってしまいますが、「出会いと別れ」が大きなモチーフとなっている作品です(ひとまず自分はそう読み取りました)。しかも、これからいなくなる人、もういなくなってしまった人との出会いと別れが、そこでは念頭に置かれています。
個人的にはそこに最も惹かれました。作者の方のまなざしの強さを感じます。