どこかに実在する世界の物語が記された、図書館に眠る古い文献のよう

 この作品は、”文学”として仕上げられたハイファンタジー作品です。今時の作風を採り入れつつも、隆盛を極めるラノべとは一線を画した文体に滲む古さは、作品を安売りしない、文学としての矜持を感じさせます。

 例えば、作品の中で『想念の浸潤』という言葉がさらっと出てきますが、難しい言い回しの言葉でさえも、そこにあって然るべきものになっています。おそらく作者は、文学に対して深い造詣を持つ方なのではないでしょうか。古い作品も新しい作品も知る、そんな知見があるように思います。

 図書館で手に取った古い文献を紐解いた時、そこに記された異世界に吸い込まれ、そこで生きている人々と共にその世界を生きていくような、そんな気持ちにさせられる作品に仕上げられています。

 今はまだ第一章が終わったところなので先の話になりますが、いつか最後まで読み終わり、パタンと分厚い本を閉じ、再び図書館の棚に戻す時が楽しみに思えて仕方がありません。いつかまた本棚から誰かが手に取り、この作品を読み耽る時が来るはずです。これは、そう思わせる文学作品です。

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