第13話 平和な国だったんです
さて、グダグダになってしまった初対面も乗り越え、すっかり打ち解けた俺達は、そこからちゃんと真面目な話もした。
「さて、ケイイチも回復しましたし、まずは魔力測定の結果をお伝えしますね」
「はい、お願いします!」
気になっていた俺の魔力計測の結果だが、聖獣に選ばれるだけあって内包魔力は多かったようだ。それは想定内だといわれたが、ただ魔法属性については、火、水、土、風の基本的な四属性に加えて、光と闇の稀少属性まであったらしく、予想外だったといわれた。
「六つ、ですか。やっぱりそれって凄いんですかね?」
「ええ、素晴らしいですよ。ここまで揃っている人は、人族では滅多におりませんし。一番反応が強いのはやはりというか聖獣と相性の良い光属性でしたけれどね」
「成る程。じゃあ、光属性の魔法から習得していくといいんですかね?」
「そうですね。ただ、先程も言いましたが聖獣の卵が孵るまでは、ケイイチの魔力は枯渇気味ですから、練習は精霊樹を見つけて補給してからにした方がいいでしょう」
「……そうですか。分かりました」
人族としては凄い才能を持っているらしいけど、使いたい時に使えないんじゃあんまり喜べないよなぁ。まあ、今後に期待しとくか。
「それでは、そろそろお二人の紹介をさせていただきますね」
「あ、はい」
「こちらは、神殿騎士のエアルミアです。エアルミア、こちらはつい先程この世界に落ちてきたばかりの異世界人で、神獣が半身に選んだケイイチです」
「よろしく、ケイイチ」
「エアルミアさん、よろしくお願いします」
女騎士さんの名前は、エルフ語で海の宝石という意味らしい。へぇ、印象的な青い瞳を持つ彼女にぴったりの名だなぁ。綺麗な響きだ。
「それで、彼女に、精霊樹までケイイチの護衛をお願いする話なんですが、実は貴方が魔力枯渇で倒れている間に少し、話し合っていたんですよ」
「そうだったんですか」
「ええ。その際は、ご本人と聖獣の卵を実際に見てから決めるのことになったのですが……エアルミア、どうですか……?」
「うむ。聖獣の卵をくっつけた、多属性持ちの異世界人……この目でしかと確認させてもらった。これほどの人材なら、エルフ族としても保護対象になるだろうな」
「……つまり?」
「引き受けた」
「あっ、ありがとうございます!」
強くてきれいなエルフお姉さんと二人旅が出来るとはっ。社畜の憧れ、ひっそりスローライフを送る事こそ無理っぽいが、これはこれでスッゴく楽しみになってきたな!
「お引き受けくださりありがとうございます、エアルミア。彼は異世界人ですので、この世界の事情になるべく巻き込みたくないのです。聖獣の半身というだけでも十分重荷を背負わせてしまっていますからね」
「ああ、そうだな」
「しかし、このまま人の国に居続ければ、それは難しくなるでしょうから」
「分かっている。まあ、南の大森林の奥へ……私達の国へ入りさえすれば大丈夫だろう。そこになら精霊樹もあるし、いつでも仲間達にも助けを求められる」
南の大森林にはエルフを始め、ドライアド、シルフ、ニンフと言った美しい妖精族の他、オークやトロルといった強力な魔物も生息している。ほとんどの人族の力では太刀打ちできない危険地帯なのである。
おまけにエルフの国の周辺には強力な不可視の結界があるらしく、中から招かれないと入れない仕様なんだとか。
「成る程。それだと俺だけで大森林の中を進むのは難しというか……無理ですね」
お二人の話を聞くと尚更、不可能に近いと思う。
「そうなんですよ、ケイイチ。ですから彼女が引き受けて下さって、本当にありがたいのです。よかった。感謝します、エアルミア」
「いやまあ、ここで巡り会ったのも神の思し召しだろうからな。この世界の住民の使命だと思って全力で君を守ろう。安心してくれ、ケイイチ」
「あ、はい。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。エアルミアさん」
「ああ、任せておけ」
力強く頷いてくれる女騎士の姿は凛としていて格好よく、思わずキュンとしてしまった。
女性に守ってもらうのは男の沽券にかかわるとか、もうそんな甘えたこと言っていられる状況じゃないしな。お姫様抱っこも(俺が彼女に)されてしまっていることだし、格好悪いのは今さらだ。
強くて美しい彼女と出会えた幸運に感謝しながら、お世話になりますという気持ちを込めて、しっかりと頭を下げたのだった。
すぐに旅立った方がいいとのことで三人で具体的に話を詰めていくと、色んな問題点が浮かび上がってきた。
「森に入ってからはいいとして、そこまでは人の国を通る訳ですからね。何かしら身分を証明できるものがあればいいのですが」
「う~ん。証明……ですか」
それがないと街への出入りが毎回、大変になるらしい。簡単な審査と通行税を払えば入れてくれるらしいが、出入りするたびに調べられるというのもお金を取られるのも大変そうだ。
困ったな。異世界人の俺にそんなものはないぞ。社員証や免許証なんかはあるけど全く役に立たないだろうし……。
でも、そこら辺は言わずとも分かってくれているようで、まずエアルミアさんが手っ取り早い方法をひとつ、提案してくれた。
「そうだな。冒険者ギルドに登録してギルド証を発行してもらうという手もあるぞ」
「おおっ、冒険者ギルドですかっ」
さすが異世界っ。冒険者ギルドがあるのか……テンションが上がるなぁ。
それは是非、登録してみたい!
「ですがエアルミア、冒険者ですとこの国にいたという記録が残りますよ。ギルドカードにはケイイチが稀少な六属性持ちだと自動的に記載されてしまいますし」
「……つまり、使える人材だとして国に連絡がいく可能性がないとは言えないということか」
「ええ。出国が難しくなるかもしれません」
「そうだな。危険かもしれない」
神官さんにそう言われて、エアルミアさんは眉間にシワを寄せ、腕を組んで考え込んでしまった。
確かに俺も、ギルド登録には憧れ的なものはあるが危険を犯してまで登録したいとは思わないな。
しかし本当、ありがたいよ。二人とも初めて会ったばかりの俺の身の安全のために、こんなにも真剣になってくれるなんてさ。
「どうしましょうねぇ」
神官さんも、何か良い手はないかと首をひねっている。
「ギルド証だと身元不明の者でも審査なしで発行してもらえるという利点はありますが、デメリットもありますし」
「……手軽に作れるという以外、今のケイイチにはあまりメリットはないかもしれない。ちなみに君は、戦闘経験などはあるのか?」
「いいえ、全く無いです。めちゃくちゃ平和な国の出身なので」
武器は携帯しているだけで罪になるから、ナイフすら持ったことがなかったんだと言ったら驚愕されたよ。
「何ともまぁ……異世界には凄い国があるものなんですねぇ」
「そ、そんな世界が存在するのか……というか出来るのか!? にわかには信じがたいが。だが素晴らしいっ。君の住んでいたところは、この世界の者にとっては理想郷だっ」
キラキラとした憧れの視線を送られると、なんとも居心地が悪い。
そこまで規制しても犯罪はなくならなかったわけだし、彼女達が想像するような理想の国でもないと思う。
「いや俺達の世界でも、さすがにそんな国は自国くらいでしたけどね」
「そうなのか。だかしかし、それなら余計に必要ないかもしれないな。冒険者の仕事は主に魔物討伐だ。武器を持った事も無いものには、受けられない依頼だろう?」
「そうですね」
この世界の魔物がどんな姿をしているのか分からないけど、もし今すぐやれとか言われたら絶対、無理だと即答できる。
「ギルド証は定期的に依頼を受けないと、期限切れで無効になるんだ。これから行くエルフの国に冒険者ギルドはないし」
「おぉ……な、成る程」
魔物との戦闘以外に、薬草採取とか町中のお手伝い系の依頼もあるそうだが、そちらは毎月決められたノルマをこなさないといけないらしい。
継続してギルド証を保持したいなら、キリキリ働けっ、ということか……なんだよそれ、まるで社畜のようじゃないか。
規定数をこなすには毎日活動するしかないそうなので、これから旅立つ予定の俺には出来そうにない。
そんなのやってたら、いつまでたっても町から出れないもんなっ。
と言うわけで、憧れの冒険者ギルド登録は無しになった。
「う~ん。それなら神殿騎士の従者ということにすればどうだろうか? さほど詮索されずに通ることができるはずだ」
散々、悩んだ末にその神殿騎士であるエアルミアさんが自分の従者と言うことにしてしまえばどうかと提案してきた。
「あ、それはいいですねっ。エアルミアの従者なら私も安心です。ケイイチもいいですか?」
「ええ。身の安全が保証されるなら俺はなんでも」
「よかった! じゃあ、役柄に合わせて服も着替えた方がいいですね」
「そうだな。見慣れない服はそれだけで目立って人々の記憶に残りやすいし」
「ですね。すぐご用意できますし、ちょっと取ってきますっ」
方針が決まったことにホッとしたようで、神官さんはいそいそと立ち上がると、ケイイチに渡す服を探しに部屋を出て行った。
聖獣と共に生きる~異世界でもツイてない俺の奮闘記~ 飛鳥井 真理 @asukai_mari
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