第5話 生まれる前からチートらしい
――聖獣の卵付きの落ち人。
どちらか一つでも稀少なのに、それが一緒にいるんだから狙って下さいと言ってるようなものだ。元の世界に帰れないならせめて、のんびり暮らしたいんだが。
何とかならないものかな……?
「無理だな」
「無理でしょうね」
「ええぇぇぇ……」
二人からバッサリと否定された。今から隠蔽するには、ちょっと目立ちすぎたらしい。
そういえば俺って、街の中心部にある公園に、やたらと派手に光って聖獣の卵と共に登場したんだった。そんな不思議現象の後に現れればそりゃあ、人々の印象にばっちり残ってしまうよな……。
目撃者も多いし、今頃は街中の噂の的になっている可能性が高いと言われた……おぅ。
「そうですか、揉み消すにはもう手遅れですか……」
「はい、残念ながら」
「それに俺達にも、それぞれの組織に報告義務があるからさ。ケイイチには悪いが、知ってしまった以上、無かった事には出来ないんだ……すまん」
その上こちらの世界には、嘘発見器のような魔術もあって誤魔化せそうもないみたいだ。アルフレッドが申し訳なさそうに謝りながら教えてくれた。
「いえ、大丈夫です。こちらこそ貴重な情報をありがとうございます」
本当は全然大丈夫じゃないし、 またしても泣きそうだけどな!?
でもまあ、彼らは全然悪くない訳だし、むしろ突然現れた得体の知れない異世界人の俺に、この世界の情報を包み隠さず誠実に教えてくれたんだ。感謝してる。
「それにしてもこの聖獣の卵が稀少なのは分かりましたが、そんなに必死になってまで手に入れたいものなんですかね?」
異世界人の俺には、その重要性が今一よく分からないんだが……。
「ええ、この世界にとってはとても重要な役割を持つものですから。ケイイチの世界には聖獣のような生物はいなかったのですか?」
「はい。想像上の生物でしかなかったですね」
「ふ~ん。でも俺も、聖獣ってそこまで詳しく知らないんだよな」
アルフレッドも詳しくないのか……。神殿の関係者以外にはあんまり情報が出回らないものなのか?
「いや貴方はある程度、知ってないと不味いでしょう?」
「そう言われても、とにかく生まれた時から強くて、魔物を一掃してくれる凄い奴だ、みたいな事しか知らないぞ?」
「微妙に違います」
すかさず神官さんののツッコミが入った。
「貴方の中の聖獣像ってそんなだったんですか?」
「いや悪い、怒るなよ。だが俺も直接見たことはないし、噂でしか聞いたことがないんだ。しょうがないじゃないか」
「……まあ、いいでしょう。絶対数が少ないですし、全部が間違いという訳でもありませんしね。聖獣とは、魔物等の悪しきものから人々を守る為に、神から遣わされた慈悲だと伝わっています。聖獣の卵からは、すべからく膨大な力をもった様々な種類の聖獣が生まれてくる。ここまでは一般的によく知られていますよね?」
「うん、そうだな」
「過去に生存が確認されているものの中で有名なのは、ドラゴンやフェンリル、ユニコーンやグリフォンなどですね。通常の生物を逸脱したような、絶対的で強力な能力を持つ存在が多いんです」
マジでか。このちっこい卵からそんなもんが生まれてくんの!? ちょっとだけ楽しみになってきたんですけどっ。
それ以外に、神殿に伝わっている情報も話してくれた。
どうやら聖獣の力は、直接魔物をなぎ倒す為の攻撃的な力と言うよりは、その元となる瘴気を浄化することに特化しているらしい。
そこにいるだけで大量の瘴気を一気に体内に取り込み、人にとって無害で有益な魔素に変換する事が可能なんだとか。
成る程、つまりめちゃくちゃ高性能な空気清浄機みたいなもんか……。
それと、発見数が少ない為全ての個体に当てはまるか分からないが、卵の状態からでも、既に聖なる力を使えるらしい。
――なにそのチート。生まれる前からそれって凄すぎないか!?
じゃあ、そんなすごい聖獣様にくっつかれている俺にも、何か隠された力があったりするのかっ?
聖獣を育てられるほどの膨大な魔力がある事は確定している訳だし? 俺無双とか出来ちゃう? うおぉぉっ、何かワクワクしてきたぞっ。
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