第6話 半身
「おほん。で、俺には魔力があるんですよね。練習すれば、魔法が使えるようになるんですか?」
「……それが、確かに魔力はあるのですが、暫くはあまり使えないかと思います」
なんですと!?
「そ、それは何故ですか?」
「貴方の魔力は、まず第一に聖獣を育てるのに使われるからです。卵が羽化するまで、生命維持に必要な魔力以外は全て、吸収されるでしょう」
「マジでか」
おぅ、俺の野望は即効で終了してしまった……。ラノベのように、転移して異世界で俺無双は無理らしいよ!
「でも大丈夫です。その間は卵が貴方を守るでしょう。ケイイチの主な役割は戦うことではなく、聖獣が闇堕ちしないように愛情をかけて育ててあげることですね」
「はぁ……愛情を」
「はい。これは推測ですが、あなた一人が異界渡りをしたのにも聖獣の卵が関係しているはずです。生まれるためには膨大な魔力が必要となりますので、波長の合うものを求め、ついには異界まで呼びかけたんでしょう。ケイイチは聖獣の半身として選ばれたんですよ」
「半身、ですか?」
……なんだかまた知らない単語が出てきたぞ。
「はい。卵を孵し、己の半身として共に生きてくれる伴侶のような存在の事です。 半身となる者とは意思の疎通ができますし、これから生涯をかけて付き合っていくことになるでしょう」
「マジでか」
何それ。勝手に引っ付いたこの卵と、俺ってばいつの間にかそんな重い関係になってたの!?
「それと聖獣に性別はありませんが、半身の事に関しては独占欲の固まりらしいです。嫉妬深い生き物のようですので、真っさらで清らかな状態のケイイチを好んで選んだんでしょう」
「え」
何ですかその、俺の繊細な心にグサグサと刺さる条件は!?
真っさらな状態ってそれ、選ばれるために必要な条件が、ど、童貞だったってことだろ。
つまり、聖獣を連れているだけで、俺がいい年して未使用だと公言しているようなものだってこと!? 何その公開羞恥プレイはっ、イヤーー!?
「へぇ、聖獣選ばれるのにはそんな条件があるのか。だから神職が選ばれる事が多いんだな」
「そうですね。私達には名誉な事ですが、ケイイチは不自由を感じる事でしょう。聖獣が気に入らない者は誰も傍に近寄らせないでしょうし、普通に異性と付き合うのも難しくなった訳ですから」
「へえ。でも聖獣が見極めてくれるなら、悪い女には引っ掛からなさそうだなっ。よかったじゃないか」
黙れリア充。
お前にこの絶望感がわかるかっ。
いくら日本で女子と縁薄い人生を送ってたからって、異界に来て更に遠退くとかあり得ないしっ。神官さんの話だと遠回しに、生涯独身がほぼ確定しちゃってますねと言ってくれちゃってるようなもんだろ!?
「はぁ、選んでくれって頼んだわけじゃないのになぁ。どうしてこんなことになったんだろ……」
「……貴方にとっては晴天の霹靂かもしれません。ただ、聖獣にとってはとても重要な一生涯に関わることで、慎重に相手を探した結果、貴方に辿り着いたんですよ。そして、貴方もその呼びかけに反応したはずです。その時に魔道回路もつながったんでしょう」
「え、そんな事あったかな? 何しろ魔力のない世界でしたし、思い当たる節がないのですが……」
聖獣に呼ばれるとか、そんな不思議体験はした覚えがない。頭の上に引っ付いている今も、別に会話とかできないしな。
「そうですか? では、ここに来る前に何かこう、身近で普段と変わった事とかはなかったでしょうか?」
「……いいえ? 特にはないかと?」
「じゃあアレだ。電車だったっけ? それに乗るまでの一日の出来事を何でもいいから話してみたらどうだ? 本人が気付いていないだけで何か分かるかもしれないぞ」
「そう、ですかねぇ?」
う~ん、そう言われても特に無いと思うんだけどな……。
どこにでもいる平凡な社畜だったし、家と会社を往復する間に死んだように寝る以外、何かをする時間も殆どなかった。俺の毎日は同じことの繰り返しで思い返すまでもない。
何のために生きているのかとか、正気に戻って考えたらダメな日々が続いてて……。ううっ、今の会社に入ってからのあまりの悲惨さに、自分で言ってて物悲しくなってきちゃったよ。
「本当に魔法的なと言うか、変わった出来事は何も起きてないんですけど。強いて言えば、そうですね……今日は朝からものすごくついてない一日でした。何をやっても上手くいかないと言うか? それと、やたらと頭に物がぶつかってきて痛かったなぁと。そんな事くらいでしたよ」
「多分、それですね」
「嘘でしょ!?」
「いいえ。考えられる事態です。聖獣の卵が成長するのにあなたから正のエネルギーを吸い取った為、一気に不幸が降りかかったんだと思われます」
「そんなバカなっ、まさかアレには意味があったと言うんですか?」
とても信じられないんですけど!?
机の角に頭をぶつけるとか、カラスに臭い落とし物をされるとか、世界を渡る程求められたにしては、結構ショボい奴ばっかりだったのに……。
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