第11話 魔力操作



「そして人族には、生まれつき得意な属性というものがあります」


 属性には、火、水、土、風の基本的な四属性と、光と闇の稀少属性の六種類があるらしい。人はどれか一つ以上は必ず、属性を持っているようだ。


 そして、得意な属性にあった魔法を身につけていくのだが、発動には決まった呪文や言葉はない。なので、まずは自分にあった方法を見つけることが大事らしい。


 例えば貴族なら、家毎に長年伝承されてきた方法があるし、民間でもいくつもの流派が伝わっている。そこで自分にあった流派に教えを乞うことも出来るんだとか。


 何よりもイメージする力が大切で、自分が想像しやすい言葉に変えて訓練をしていくといいといわれた。

 呪文や魔道具、魔法陣などは魔法を発動させるための起爆剤でしかないという。


 要するに、魔力操作で扱い方を学んだ後は、自力でどうにか工夫しないとってことだな。


 決まった呪文を唱えれば魔法が使えるわけではないので、中にはイメージ力が足りないばかりに魔力はあるのに魔法が使えないという人も一定数いるらしい。ここは頭を柔らかくしてフィーリングでどうにかするしかないかも。



「他には、特殊属性と呼ばれるものもありますね。ちなみに私のような神官ですと、基本属性の他に聖属性魔法が使えます。騎士だと強化魔法が、魔術師だと召喚魔法などがつかえますし、これから引き合わせる予定のエルフ族ですと精霊魔法が、獣人族なんかは変身魔法が使えますね」


「へぇ。職業や種族によっても使える属性が違ってくるんですか」


「そうなんですよ」




 一通り概要を説明してもらったところで、次は実際にやって見ることになった。


「まず、自身の魔力を感じ取る練習からですね。両手を出していただけますか」


「あ、はい」


 差し出した手を、神官さんが握る。


「今から魔力を流します。力を抜いてリラックスしてください。両手に意識を集中して……いきますよ」


 瞬間、繋いだ手から、何かが流れてきてゾワリとする。


「ウォッ!? ワワワッ、何か変!?」


 思わず振り払いそうになった手を、神官さんが固く握り直した。


「落ち着いて、ケイイチ。大丈夫、今のが私の魔力です」


「そう、なんですか? 何か、ひたすら掌がこそばゆいんですけど」


「しばらくすればその感覚に慣れてきますから……ちょっと我慢してくださいね」


「はいっ」


 ムズムズする刺激に、じっと耐えていると……。


「うん、馴染んできましたね。それでは今度は、流す魔力を体内で動かしてみます。集中してそれを追いかけてみて?」


「ひ、ひゃいっ」


 手から流れ込んでくる魔力はゾワゾワするし、先程より多くて熱いんだけどっ。


 でも、それを追いかけるようにと言われたので、不快感を無視して集中しようと奮闘しているのだが……体を内側から撫でられているようで、何かもう、落ち着かないんですけど!? あちこちコショコショするぅっ……だからむず痒いんだってばっ。


「頑張って、ケイイチ。これを乗り越えられたら習得できるからっ」


「はぅ。うにゅぅ――」


 ダメだ……まともに返事が出来ない。最早、何語をしゃべっているのか自分でも不明だが、これでも今の俺の精一杯なんだ……聞き苦しいだろうが勘弁してやってくれ。




 その後も我慢して体中を動き回る魔力に耐えながら感じていると、少しずつその熱にも慣れてきたようで……。


「あ、ちょっと楽になってきた。魔力の流れを追えるようになってきましたよ、神官さんっ」


「おおっ、本当ですか! それでは仕上げに、今までの過程をひとりでやってみてくださいね」


「え……イヤイヤちょっと待って」


「いいえ、このまま一気にいきましょう」


「少し休憩……」


「フフフっ、さすが聖獣の卵に選ばれただけあって、魔力も多いし飲み込みが早くて素晴らしいです。コツを忘れない内に続けてやってしましょうね、ケイイチ」


「……ううっ、分かりました」


 有無を言わさず、続行を指示された。神官さんったら、意外とスパルタだったんですね!?




 繋いでいた手を離し、まず体の中にある魔力を感じ取って……。うんうんこれだね、ホワホワしてるあったかいやつだ、わかるよ。


 これを動かす……神官さんの助けなしで。


 チラリとみたら、ニコニコと微笑まれた。ひ、ひとりでやれって事ですね。が、頑張ります。


 う~ん。血液のように循環させるイメージがいいか。


 先程、神官さんから指導してもらったことを思い出しながら、そのあったかい塊に動けと念じる。


 …………。


 あ、大丈夫そう……結構、感覚的に動かす事が出来た。手伝ってもらっていた感覚が残っていて、先程の延長って感じでこう、ね?


 ……勢いって大事なんだなぁ。さすが神官さん、たくさんの人に魔力操作の指導をしてきただけあってよく分かってる。




 暫く体内をあちこち動かして、指先から体外にも出したりなんかして……とか色々やっている内に、魔力操作を習得出来ました!


「お疲れ様です、ケイイチ。やりましたね」



 まぁその後は、疲れだけがどっと噴出してたけどね。ヘロヘロになって、思わずぐったりと椅子に寄りかかっていると、少し休憩しましょうと言って、神官さんが飲み物を出してくれた……ありがたい。







 少し休んで魔力も回復してきたので、魔力測定をすることになった。スパルタで学んだ魔力操作の成果が試される……。


「では、ケイイチ。これからもう一度、この水晶に手を置いて魔力を流して貰うのですが、一度、最大魔力を放出していただくことになるので、急激に疲れを感じたり気分が悪くなるなど、何か体に異常を感じるかもしれません。その時は教えてくださいね。言葉がでない場合は、手を上げて知らせてくださっても構いませんから」


「はい、分かりました」


「では、始めましょう」


 神官さんの合図で、再び挑戦した。目の前に置かれた大きな水晶へと両手を置き、初めは軽く魔力を流す。


 ぶっつけ本番で、意識を集中して魔力を操作し続けるのはしんどかったが、すぐに水晶玉がパァッ、と淡く光り出した。おおっ、これは成功か!?


「大丈夫そうですね。では一度、最大魔力を出すつもりで流してくれますか。一瞬だけで構いませんから」


「分かりました」


 とは言ったものの初挑戦なので、一気に魔力を出すってやり方も、どこまでやれば最大魔力になるのかも分からない。何かこう、ブワアァ――ッと一気に放出するイメージが湧くようなのってないかな……う~ん? 


 脳ミソを振り絞って考えろ、俺。


 ウムムムゥゥ――、参考になりそうなもの……あっ、そうだ!! か○はめ波を参考にしたらいいんじゃんっ。天才かっ、俺!?


 でもこれを口に出すのはちょっと……かなり恥ずかしいので、心の中で唱えようそうしよう、うん。じゃ、やるかっ。


「か~、め~、は~、○~、波――っ!!」と声に出さずに叫んで、思いっきり魔力を押し出した!



 パアアアァァァッ――――――!!!



 うおぉっ、すっごい光! 部屋全体を多い尽くす勢いなんじゃないか、これっ!? 水晶の耐久とか大丈夫か!?


「い、勢いよすぎた!?」


「はい、いいですね。大丈夫ですよ」


 あまりの強い光源にびびっていたのは俺だけだった……おぅ。一応、神官さんが褒めてくれたけど、淡々としている……これが、普通の状態なんですね。


 なんかちょっと、俺すげぇとか思っちゃったんだけど!? 勘違いかっ。は、恥ずかしいっ。






「では、次に属性魔法を調べます。初めのように、細く絞った魔力を流せますか?」


「はい、少しだけですね。えっと……これでどうでしょう?」


「ええ、よろしいですよ。では、頑張ってもう少しこのまま流し続けてください。確認が終わるまでは現状維持でお願いしますね」


「わ、分かりました……」


 水晶が置かれている台座部分には魔法陣が書かれている。それによって、魔法属性は色で、魔力測定値は光る文字となって水晶玉の中に浮かび上がってくる仕組みらしい。う~ん……異世界っぽい、ファンタジーだなぁ。






 そうして今度は順調に、魔力の属性について測定している途中……。


 何故か俺は、酷い虚脱感に襲われた……何だコレ? 急に身体に力が入らなくなったような……もしかしてこれが神官さんが言ってた急激な体調の変化ってやつか?

  イヤ……でもこれくらいなら、まだまだ耐えられる。社畜は過酷な事態に慣れているからな、こんなん余裕ですよ。


 でも、早く終わってくれると嬉しいけど……これ以上続くと、ちょっとまずい、かもしんない。


 次第に、まるで身体の中からエネルギーを無理矢理引っこ抜かれたような気分になってきて……こいつは本気でヤバいか!?


 クラクラしながらも、最後の力を振り絞って何とか流し続けていると、ようやく水晶の方に光る文字が浮かび上がってきたらしい。


「はい、終わりました。お疲れ様、ケイイチ。もうよろしいですよ」


「あ、はい。ありがとうございました」


 俺の魔力属性の測定結果が、無事に出たらしい。


 要らんとこで社畜根性を発揮して無理してしまった感はある。でも、終わりまで魔力がもってよかった、よ……うん……。


「あ、ケイイチ……?」


 安心した途端、焦ったように呼びかける神官さんの声が聞こえて……そして、遠ざかっていった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る