第10話 魔力測定……のその前に?



 気を取り直して話の続きを聞いていると、どうやら教会にあるような周辺の国も含めて描かれた地図は貴重らしく、他では中々見れないだろうとのことだった。だったら今、書き写させてもらうしかないよね?

 神官さんに頼んでみたところ、快く了承してくれたので、遠慮なくご厚意に甘えさせてもらうことに……。


 確か、日本から唯一持ってこれた薄っぺらい通勤鞄には、メモ帳や筆記用具が入っていたはず。

 整理整頓が苦手な圭一の鞄の中は乱雑で、お目当てのものを探し出すのには時間が掛かる仕様になっているのだが……。

 いつものようにゴソゴソと鞄の中を探ろうとして、既に自分がメモ帳とボールペンを引っ付かんでいるのに気づいた。


 ……うん?


 今日は珍しくやけにアッサリと見つかったな……まあ、いいけど。




 圭一が書き写している間に、神官さんからこの世界の通貨ついても説明をしてもらう。


 硬貨はそれぞれ十枚ずつ、小銅貨、銅貨、大銅貨、小銀貨の順に上がっていくようだ。


 この世界の食材や衣服のお値段なども聞いてみたところ、物価はほぼ日本と変わらなかった。お金の単位も一緒だし、これなら戸惑うことなく適応できそうだ。


 というわけで日本円に当てはめてみると、小銅貨が十円、銅貨が百円といった感じになった。

 庶民の間では小銀貨の上の銀貨くらいまでしか流通していないそうだが、銀貨一枚で十万円相当なのだからそんなもんかと思う。


 その上の通貨には、金貨や白銀、白金などもあるそうだが、貴族や豪商などのお金持ちしか使わないので、神官さんも見たことがないらしい。


 ……ふ~ん、じゃあ俺にも縁がないんだろうな。


 何しろ奴らはたくさんお金を持っている人の方へと寄っていく習性があるからな、とかやさぐれたことを考えながら聞いていた。




 また、もしこれから街に定住を希望することになるかも知れないからと、一般的な手続きの仕方も教えてくれた。


 この街だとまずは住む場所を手に入れて、役所に申請する。その場合の住処とは、賃貸でも持ち家でも住み込みでも構わないようだ。

 それから一年間分の税金を前払いで納めると、同期間……一年間分の身分証明を発行して貰えるらしい。

 この税金は毎年必要で、支払いが滞ったり犯罪を犯したりすると、即座に取り消されるので注意してくださいと言われた。


 大体、人族の街ではこれと同じような方法を取っているということだったので、一応覚えておこうと思う。


 まあ、当分は定住しないというか、聖獣持ちだとバレたら身の危険を感じるから出来ないとは思うけどね。







 神官さんのためになる話を聞きながら、地図の方も写し終えた。絵は得意なので、サラサラと短時間で仕上げることができ、腕が落ちてないことに満足していると……。


「へぇ、お上手なんですねぇ」


 横から覗き込んだ神官さんが感心したように言った。


「ははっ。まあ、これは趣味というか……好きなので」


「そうなんですね。ケイイチなら、絵の才能を生かした仕事も出来そうです……」


「いやいや。誉めすぎですって神官さん」


 綺麗に書き写された地図をまじまじと見つめながらそう言われて、圭一は照れ臭くなった。

 大人になってからは、こんな風に素直に誉められることなど久しくなかった。何だか気恥ずかしくて、思わず顔が火照ったの感じる。真っ赤になっちゃってるんだろうなぁ、もう。


 いたたまれず視線を逸らしアワアワと焦っている圭一を、神官さんは微笑ましそうに眺めていた。




「ふふふっ。それでは、移動しましょうか。魔力測定器は奥にありますので」


「あ、はい。神官さん、この地図、ありがとうございました」


「いえいえ、どういたしまして」


 貴重な地図を返却し、机の上を片付けてから立ち上がると、神殿の奥にある祭壇の方へ向かった。


「こちらです。この水晶で、今からケイイチの魔力を測定したいと思います」


「……これで測るんですか」

 

 綺麗な真円だけど、それを除けばただの無色透明な、普通の水晶に見える。


「ええ、この水晶玉が魔力値を鑑定する魔道具なんですよ。これに手を置き軽く魔力を流すだけで、対象者の魔力総量と、同時に属性が調べられるんです。早速、やってみましょうか」


「は、はいっ」




 神官さんに言われた通りに水晶玉に右手を置き、軽く魔力を流す……。


 ……うん? 魔力を……流す?


 なんか、当たり前のように言われたけれど、それってどうやって!?


「あの、すみません神官さん。そもそも魔力自体がよく分からないというかですね? なので流そうにもどうすればいいのか、その……」


「ああっ!? すみません、そうでしたっ」


 あちゃーと神官さんが頭を抱えた。どうやら素でその事を忘れていたらしい。


「ケイイチの世界には魔力が無いんでした……それは分からなくて当然ですよね。分かりました、まずはそこからですね。魔力操作の練習からしてみましょう!」


「はい、よろしくお願いします!」




 というわけで急遽、魔力操作の練習をすることになった。


「理解が深まるほど習得が早まるので、まず、魔力とは何か、魔法とはどうやって発動させるのか……についてご説明したいと思います」


「分かりました」


「まず魔力には、空気中に漂っている外部魔力と、体の中にある内部魔力の二種類があります。重要なのは内部魔力なので、外部魔力の説明は今、省かせていただきますね」


「はい」


「内部魔力は、血液と同じで無いと生きていけません。生命維持に欠かせないもので、体内に宿っています。これは、この世界で生きる全ての生命体に当てはまるものなんです」


 ただし、保有している量には個人差や種族差があるらしい。遺伝も深く関係しており、魔力総量が多い家系だと子孫にその特性が引き継がれていく。


 この国では貴族階級の者の方が魔力総量も多く、そうした子供も生まれやすいそうだ。

 ただ、生まれながらに持っている魔力量は日々の鍛練次第である程度増やすことが可能出らしい。成人するまでの時期が一番、 成長率が高いと言われている。


 魔力が多い方が職にも困らず生きやすいので、平民でも小さい頃から上を目指して魔力操作の訓練を受けるのだという。


 なので、魔力操作が出来なくて魔力測定を受けれないというような問題に直面する大人はおそらく、異世界人くらいらしい。

 神官さんがうっかり見落としてしまうほど、息を吸うのと同じくらい自然に意識せずやってのけられるそうだから。


 そして、自らがどの程度の魔力量を持っているかについては、教会にある水晶玉の測定器で鑑定しないと分からないので、成人した時に全員、調べるらしい。これは義務化されていて、無料で受けられるんだとか。


「まあ、アルフレッドのような騎士や魔術師、冒険者など、仕事柄よく魔力を使用する職業についている者は、自分の状態を常に把握しておく為に、定期的に測定に来るんですけどね」


「へぇ、そうなんですか」


 その場合は教会に、お布施納めないといけないそうです。





「……ここまではいいですか?」


「ええ。という事は俺も、魔力を宿せる体になっているんですよね……自覚は無いですけど。この世界に来てから発現したのでしょうか?」


「そうですね。元々、魔力のない世界にいらしたわけですし、そのままでは生きられませんから。多分ですが、聖獣の卵が界渡りして貴方にくっついた段階で、変化は開始されたんだと思います」


「でも、向こうにいたときには聖獣の卵なんて、頭にくっついて無かったような……?」


「それは……多分ですが、卵の状態でも魔力の塊ですから、魔力のない世界では感知出来なかったのだと思われます。この世界の生き物の中でも特に、聖獣は内包魔力が膨大なので」


「……成る程」





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