第4話 厄日はまだ続いていた
この質問で明暗が分かれるかと思うと緊張するけど、確かめないわけにはいかない。ドキドキするなぁ、もう。
「あのっ。その人は元の世界に帰れたんでしょうか?」
「……いいえ。それがですね。記録によると生涯この世界で暮らされたとあるんです」
「ん?」
えっと……どういうことかなっ!? それって帰れなかったのか、それとも帰れたのに自分の意思で態々残ったのか、どっちなんだろう? そこんところ、かなり重要なんですけど!?
「じ、じゃあ他に、元の世界に帰った人の話とかは残ってたりはしませんか?」
「それが……私の知る限りでは、帰れたという落ち人の話はありませんでした。この世界には、異界に渡るような高度な移転技術もありませんし、そういったことは難しいかと……」
「そう、なんですか……」
つまり、もう元の世界に帰れない……と?
「はい。何しろ世界の裂け目というのは、偶然起こる自然現象みたいなものと言われてまして、専門家でも対処のしようがないようなのです……お役に立てず、すみません」
「いえ、そんなことないです。教えてくださってありがとうございます、神官さん」
機械的にお礼の言葉が口から出たものの、頭の中は真っ白だ。これで帰れない可能性が濃厚になったんだから当然だろう……はぁ、参ったなぁ。
変に希望を持ったまま、中途半端に生きることになるよりはいいと思うしかないのか?
「でも、貴方の望む答えではなかったでしょう?」
「いえ、いいんです。正しい情報を早い段階で、こうして誠実に教えてもらえましたから。ここで生きていく覚悟が、できた気がします」
「ケイイチ……」
気がするだけだけどなっ。
実際はこんな短時間で覚悟なんか出来るかっての。ちょっと格好つけたいお年頃なんだよ。まぁこうして早めにはっきりと分かってしまった方が、諦めがつくはずだしさ……多分。
あとひとつ気になっていたのが、今回落ちてきたのが俺だけかどうかということ。それについても教えてくれた。
次元の狭間というのは本来あってはならないもの。一度開いてしまうと、今度は世界によってすぐに修正しようとする力が働くため、小さな切れ目がごく短時間、瞬間的に出来るのみだとか。
「その修正力は強く作用するため、残念ながら同時代に同じ世界から複数名落ちてきた前例はありません。また、その狭間から別の世界から人が渡ってくることも出来ないようです」
「……成る程。じゃあ今回は、俺だけがこの世界に落ちてきた可能性が高いってことですか」
「はい。そうなるかと」
「確かにあの場には他に、ケイイチのような黒目黒髪の変わった服を着た奴は目撃されていないし、俺も見なかったな」
さすが警備兵、ちゃんと見てくれてたんだ。でもこれで、あの時一緒に乗っていたはずの他の乗客達がこっちの世界に来てないってことが確定してしまったな……。
何で俺だけがこんな目に……厄日ってまだ続いていたのか。地味にショックだ。
「落ち人自体が珍しく、数が少ないですからね。一番最近だと数十年程前に一人、隣国での保護が確認されています。中にはこの世界にはない有益な知識や、こちらに来てから珍しい能力を授かる方々もいらっしゃいますので、国が囲い込む事も多いんですよ」
「……もしかしてそれは、俺にも当てはまるのでしょうか?」
「そうですね。 あなたの場合はもっと特殊です。ご自身の能力の有無に関わらず、希少な聖獣の卵を持っているというだけでありとあらゆる勢力から狙われるでしょう」
「マジでか」
思わず素で答えてしまった。
なにそれ怖い。権力争いとかに巻き込まれたくないし、もうこの卵手放したいんですけど!?
思わず頭のてっぺんに手をやって、丸くて温かい小さな卵を引き離そうと引っ張ってみたがやっぱり取れない。
触った感じでは、単純に卵がある部分の髪の毛を切ればいいという問題でもなさそうなんだよなぁ。う~ん……例えるなら、瞬間接着剤でくっつけたというよりは、磁石のマイナスとプラスが強力に引き合っているのに近いのか?
「さっきアルフレッドに聞いたんですが、この卵って一度くっついたら孵るまでは取れないって……本当ですか?」
「はい、その通りです。 すでにあなたとの魔導回路がつながっていますので、無理に引き離そうとした場合、聖獣は羽化せず死んでしまうでしょう。まあ、実際に引き離す方法があるかどうかはわかりませんが。あなたごと手に入れようとするのはその為ですよ」
「成る程」
う~ん。なんとか穏便に取れないかと思ったんだが、聖獣のことに詳しい神官さんがこれだけ言うなら無理っぽいな。
しかし国に保護されるのは絶対嫌だ。
どうせ偉そうな特権階級に命令されて、死ぬまでこき使われる羽目になるんだろ? 異世界に来てまで社畜のように働きたくない。
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