第8話 つまりは逃げろってことですね!?
「羽の色は、属性によって違い、火属性は赤、水属性は青、土属性は黄、風属性は緑の色の羽を持っています。臆病な一面もありますが子供のように好奇心いっぱいで、心を許した人にはとても人懐っこくて献身的だそうです」
「それは……ちょっと会ってみたいですね」
「ふふふっ、あなたならきっと会えますよ。ただ、最近はちょっと困ったことが起きてまして……」
「……?」
精霊樹は聖獣と並び、神からの贈り物であるため、森に暮らすエルフやドワーフ、獣人族や竜族などが先祖代々大切に守ってきた。
彼らは己の種族の権勢よりも、この世界の存続を優先考える事の出来る種族なので、守人を務めるには最適であった。
だが最近、そんな彼らの目を盗んで精霊樹を盗掘している不埒な輩がいるそうなのだ。
精霊達が怒って、守人であるエルフ達にも中々近付いて来なくなってしまった為、その原因を探っていた時に発覚したんだとか。
あまりにも周到に盗掘されていたので、国ぐるみで関わっているのではないかという噂もある。
魔物がこれまでになく増えてきているために、自国に持ち帰り、繁殖させて魔物の脅威から自国を守ろうと計画していているのではないか……と。
――そして、そんな不埒なことを考えるのは……。
残念ながら、人族の王侯貴族たちである可能性がとても高いらしいよっ。
――う、う~む。
まあ、その、ある意味予想通りというかね?
……悲しいことに、それを聞いて何だか納得してしまいましたよ。
だって、つまりそれは……。
「人間の権力者って、結局どの世界でも変わらないってことなんでしょうかね? 世界の命運より自国の利益を優先させるとか……最悪ですよ」
「ケイイチの世界でもそんななのか。世界が違っても、欲深さは一緒だとは……」
「ええ、ただひたすらに残念です」
当たり前のことだけど、異世界だからってだけで夢を見てはいけないんだな……。
「……そう、ですか。しかも今回は悲しいことに、精霊樹の実物を知らなくとも一目見ただけで分かるという神の恩寵が、仇になってしまいました……」
「恩を仇で返すとか、本当罰当たりな連中だよな。少しは後先考えて行動して欲しいもんだ。自分で自分の首を絞めていると、何故気付けないんだっ」
「アルフレッド……」
精霊樹は、魔物の発生元である瘴気を聖素に変換することが出来る。
聖獣が瘴気を魔素に変えられるのと少し似ているが、こちらはより浄化作用が強いのだ。
盗掘されてしまった場所では、その強力な浄化作用がなくなり、当然のことながら魔物が増えてしまう。それが分かっていて、他国の精霊樹の守りを害しているとは。
――本当、ろくなことをしないよな。
アルフレッドは家族思いの優しい男だし、これから民が受ける苦難を考え、心を痛めているんだろう……。
「はい。だからこそ、聖獣を求めるのでしょう。聖獣は魔物を減らすための貴重な戦力になりますが、発見されている数が少ない上、精霊樹と違って移動が可能。あなたを手に入れようと動く国は多いでしょう」
……え?
「ち、ちょっと待ってくださいっ。精霊樹って、動かせないんですか?」
「はい。あの樹は元々、生まれた場所以外では成長出来ないと言われていますから。今までのところ、移植も繁殖も成功したという話は聞きませんね」
「そう、なんですか……」
「これから益々、希少価値が上がるんだろうな」
「ええ」
それはヤバい……。
……つ、つまり、万が一にも人間の国に保護とかされちゃった場合は、俺の推察がバッチリ的中ってことかよっ。聖獣とセットで死ぬまで働かされる未来が確定ってか!? 冗談じゃないっ。
「……人族の国だけは、絶対避けたいです!」
聖獣の卵が孵るまでは、魔導回路を通じて魔力を吸いとられ続けるから、ろくに抵抗する術もなくて怖いし!
俺がそう言うと、神官さんは少し困ったような顔になって考え込んだ。
どうやら今いるここも人間の国らしいが、俺が考えているような事が起こる可能性が高いらしく、否定されなかった。
もしかしたら、精霊樹を盗掘している困った国の中に、この国も含まれているかもしれない……。
アルフレッドも難しい顔になった。
「……まあ、なんだ。さっきも言ったように、俺には報告義務がある。あるが、見つけ次第すぐに連れて来い、っていう命令を直接は受け取っていないからさ。なっ?」
「はい、私もです。今日は……とっても忙しいですし、もうすぐ外も暗くなってきて危ないですので、明日の……う~んと、午後、かな。それくらいにでも報告を上げるとしましょう」
――うん、よく分かった。
つまりは逃げろってことですね!?
二人が少しでも時間を稼いでくれている内に、早く出国した方がいいってっ。
「お二人共、ありがとうございます!」
「フッ、何の事だか分からないなっ」
「はい、私も何のことやら。義務は怠っていませんからね」
アルフレッドは照れてそっぽを向きながら、神官さんは少しはにかんで微笑みながら、答えてくれた。
うんうん、本当にありがたいよっ。
――その時間、有効に利用させて貰います!!
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