しばらくお預け
「ちょっと待て、いつからそんなことになってる!」
身に覚えのない言われように、戦慄を覚える。
「ほら、中学の時も後輩に手出してたし。」
「待て待て待て待てまてい!!人聞きの悪いことを言うな!しかもあれはデマ!」
中学の時、後輩の女の子と付き合っているという噂が立ったが、根も葉もない噂にすぎない。
少々人懐っこい子だったが、ただ仲良くしていただけだ。
「でも、小さい子好きだろ?」
「それは意味が違うだろうが!」
確かに子供は好きだが、邪な感情を抱いたことはない。
あの無邪気な感じが良いのであって、癒しの感情以外は求めてない。
「少しからかっただけだよ。そんなむきになるなんて…やっぱりマジなのか…?」
「ちゃうわ!」
本気で心配そうな顔をする明に思わず吠える。
確かに小さな子は好きだが、それは老婆心というか老爺心のようなもので、今まで好きになったことがある人は、年下、年下、年下・・・あれ?
年下しかいない?
「え、あれ?」
過去、自分が好意を抱いた女性を、指折り数えていた手が震え出す。
(あれ、俺はろ、ロリコ…)
「おい?ちょっと待て秀?大丈夫か?」
「…大丈夫!俺はノーマル、ノーマル…だよね…?」
「!? 気を確かに!秀!」
二人が錯乱していると、コンコンとノックの音と共にルルが部屋に入ってきた。
「お待たせしました…って、あの、どうかなさいましたか?」
錯乱する男二人という混沌が繰り広げられている部屋に軽く引いている。
「ルルちゃん?俺って普通だよね?」
「いえ、普通ではないと思いますが…」
「!?」
モウダメダ、英雄色を好むとは言うが、英雄ロリを好むは、さすがにダメだ。
「秀!大丈夫だ。」
「!?」
何が大丈夫なのだろう?
「ここに絶対不変の定義がある。それは可愛いは正義だということだ!そして、ロリは可愛い、つまりロリは正義だ。」
なんと!
「おぉ…あれ、でもそれってあくまでロリが正義なのであってロリコンは正義じゃなくないか…?
「………」
おい?何でそこで黙るんだ!
「うん、まあ正義を愛してるって考えれば大丈夫…かな?」
「…正義はロリの絶対十分条件なのか…?」
「………」
「あのぉ…?よろしいですか?」
「「あ、うん、ごめんなさい。」」
どうでもいい茶番は置いておき、
端に寄せられているテーブルを引っ張りだし、二人でソファーに腰かける。
「そう言えば、騎士団の合宿所って聞いてたからもっと狭いかと思ってたが、普通にいい感じのホテルみたいなんだよな、ここ。」
明の疑問は最もだと俺も思うが、その答えに一つ心当たりがあった。
「騎士団は基本的に貴族が就くものですから、このような宿舎にもかなりお金をかけているんですよ?」
ルルはそう言うと、テーブルにお盆を置いた。
ルルがテーブルに持ってきたにはお茶の入ったポットと固形食料。
カロリー◯イトにしか見えない。
「これは?」
「レーションです。栄養価が高くお腹で膨れる様になっているので、ここの倉庫に大量に貯蔵されています。まだ、避難指示が取り消されて間もないですから、普通の食事の用意が出来ていないのです。ご了承ください。あ、お茶はお持ちしましたのでお淹れしますね?」
そう言ってコトコトとお茶を淹れだす。
「あ、ありがとう」
様になっている。つい美しい所作に目が行ってしまう。
「ま、食うか」
「だな」
鞄のなかに入っていたお弁当箱を取り出す。
今日の弁当は母が作ったものだ。
「料理なんて久しぶりすぎてどうしましょう?うまく作れるかな?」
なんて言っていたが、母の料理は普通に美味しいと思う。
ただ、海苔で
『しゅー君LOVE』
はやめて欲しい。
「豪華な御食事ですね、海苔で文字を書かれているのでしょうか?面白い発想です!素敵ですね」
「愛されてますなあ」
「やめてくれ」
ニヤニヤしながら弁当を覗きこむ二人を手で追いやる。
他人に見られるのはかなり恥ずかしい。
だが、この弁当を食べられるのも暫くお預けかと思うと、大切に食べなきゃなと思った。
「「ごちそうさまでした。」」
昼食という名の夕飯を食べ終え、ズズズッっとお茶を啜る。
そうしていると
「秀一様。このあと少々よろしいでしょうか?」
と、ルルに声を掛かけられた。
柔和なメイドの顔ではなくキリっとした目つきに代わっている。
しばらく目を合わせた後、
「いいよ、行こうか。」
そう言って席を立った。
さて、何と話したものか。
異世界英雄の再召喚 @gacho
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