青木先生の暴走

アーデの提案に皆が騒然とする。


 そんな中、青木先生が立ち上がった。


「あの、私32なのですが」


アディは少し悩むそぶりをすると、


「問題ないと思われます。年齢が限られている問ことはありません。ただ儀式的に3つと15で行っているだけに過ぎないといえば過ぎないのですから。」


その発言に周囲の人からどよめきが起きる。


「そうだったのですか?」


皇女様のぼやきを聞くに知らなかったのだろう。


「……わかりました。その提案を受け入れましょう!」


そんな中青木先生はめをキラキラとさせてこう言い放った。


「ちょっと、青木先生!?」


困っているレディ達の世界異世界チーレムが目の前に転がっているのを放っておくなんて私には出来ない!私と、私の生徒達でこの世界を救ってごらんにいれます!さあみんな!この世界の平和を守るの「ちょっと待てアホ木先生!」だ…」


 暴走した青木先生に明が待ったをかけた。


「…………なんだい五十嵐くん??人の名前を変な風に間違えるな」


「すみません噛みました」


「違う、わざとだ。」


「かみまみた!」


「わざとじゃない!?」


((…………))


「じゃなくて!勝手に決めないでくださいよ!」


 全く以てその通りの指摘にクラス中が頷く。


 …少し引きながら。



「状況からして、その【歪み】とやらの原因を解明しない限り地球に帰ることは出来ないと思われますが。」


 そこで明は一呼吸おいて、


「俺たちは例え加護を受けたとしても、まともに戦えない!異世界チーレムができるほど現実は優しくない!」


 と叫んだ。


「お、おう」


 青木先生が気圧されている。


 しかし、明の言う通りだ。


 例え普通の加護を受けたとしても、身体能力の向上や魔法の使用権の獲得しか望めない。


「えっと、少しよろしいですか?」


 リリアネーラが話を挟む。


「確かに一般的な加護を授かっただけでは身体能力が向上するくらいです。魔法もまず魔素を体に取り入れて魔力に変換する訓練から始めなければなりません。ですから少なくともはじめの方は後方支援という形で手伝って頂くことになると思うのですが。」


「えっと、魔素というのは?」


 聞きなれない単語に青木先生が口を挟む


「魔素とは空間に満ちたある力のことです。これを自分の体に取り入れて、魔力に変換。これに加護の力を媒介させることで魔法となり、自分の意のままに働かせることができます。先程の賢者さまの翻訳の魔法も元はその力に依るものです。」


「ファンタジーキタ━(゜∀゜)━!」


 アホ木先生が再び暴走し出した。


「救いましょう授かりましょう!天に選ばれし我が宿命!すべては貴方に、捧げまショウ!」


 髪を掻き分け、白い歯を輝かせ、膝を付いてアーデに手を差し出すアホ木先生。


 完璧に決まったって顔をしているが、その場にいる全員が、一歩引いていた。アーデに至っては三歩くらい。


 失敗したと気がついたのか、アホ木先生は立ち上がり


「おっほん。さてと、話は聞いての通りだ、みんな、彼女らを救うか救わないか、決めようじゃないか、私は手を差しのべることに決めた!君たちはどうだろうか?五十嵐くん君はどうする!」


 なんというか…やはり先生は残念な人だった。


「なぁ秀、これからどうなるんだと思う?」


「さてな、わからん。」


 その後、この世界で、どうやって生活していくのかという話になり、一先ず、空いている宿舎にご案内しますね、と俺たちはとある建物に通された。


 元は騎士団の寮だったらしく。建物の老朽化で新しい建物を他に建てたらしい。ちょうど解体を待っているところだったという。


 古いといっても騎士団の寮である。騎士団のおよそ半数は貴族である。よって必然的に建物は豪華なわけで、各部屋もホテルのスイートルームくらいある。実際にともったことがないのでよくわからないが。掃除も行き渡っていて綺麗で、まだまだ使えるため、取り敢えずどうか?ということになった。


 雨風凌げるだけでもいいかな、と内心覚悟していただけにほっとした。


 部屋は二人部屋、共通のリビングと二人それぞれに寝室がついている。

 男女別の出席番号順で分けたため一番の俺と三番の明は同じ部屋になった。


 アーデの提案を聞いた後にどうなったかと言うと、俺たちはお役に立てるのならばと、提案を受け入れることに決めた。


 なんともあっさり決まったような気がするが、元の世界に帰れないなら仕方がないか、という考えに至ったらしい。


 召喚された当時も思ったが思った以上にパニックなっていないこのクラス。


 もしかして精神が図太い奴しかいないのかもしれない。


 その後の説明をまとめると、


 明日、神殿で加護を授かる儀式をする。


 地下神殿にて加護を授かるらしい。その後一応装備も整えるそうだ。貸出という形になるが。その時に市民証の発行、いわゆる戸籍も登録してもらうことになった。


 そして、【歪み】に対抗すべく動いていく。


 第一目標としては、魔都を奪還するのを手伝ってほしい。とのことだ。


 もちろん俺たちは後方支援だが。


 しかしその前にこの世界について学んでおくべきだ、ということで、これから先は一先ず、勉強会らしい。


 城の図書館を解放してくれるらしい。


 かなりの大盤振る舞いだ。


 何かあるのだろうか、と思ってしまう。


明の向かいのソファーに腰掛け話しかける。


「魔都を奪還し、空間の亀裂の謎を解き、止める。言葉で言うとシンプルだな。」


「邪神討伐だったらもっとシンプルだったのにな?」


「邪神はもう滅びてる。ついでに悪の代名詞の魔王は味方。魔都の王、魔族の棟梁。そして世界を救った七人の英雄のうちの一人。」


「テンプレとは少し違うな」


「ないわけじゃないけどな」


「確かに。」


 明とそんなやり取りをしていると、呼び出しの魔道具が鳴った。


「おっと? この道具、たしかインターホンだっけ?」


 呼び鈴から音がなり、明がソファーから起き上がる。


 「はい、どちらさまで?」


 明がドアを開けると黒髪のメイドさんがいた。


「皆様のお世話を仰せつかっております。メイドのルルでございます。ご挨拶にと伺いました。」


 良く見ると、地下神殿で声をかけた、あの巫女さんだった。


 今は巫女服ではなく、黒地を基本とし、白い前掛けを着けたいわゆるメイド服を着ている。


「ご丁寧に有り難うございます。五十嵐です。あちらは青井」


「何かお部屋に不都合はございませんでしょうか、何かございましたら何なりと仰せください。」


「特には大丈夫です、何かあったら声をお掛けしますね。」


 どれ程重要人物だと思われたのか。計画通り、誰か上の方の人間に話したのだろう。そうでなければ神殿の巫女がわざわざここまで来ることはない。

 誰に話したのかも気になるところだが。


それはそれとして、やっておきたいおとがある。


「少し町を見て周りたいんだ。外に出ても構わないかい?」


 ここは町からは少し外れた場所にあるが、十分も歩けば城下町に入る。死んでからの300年でどう変わったのか、少し見ておきたかった。


「はい。案内致します。」


ルルの言葉に、一人にはさせないという意図を感じだ。


 (さすがに考えすぎかな?)


 と思いつつ、予定を聞く。


「ありがとう。いつならいいかな?」


「今からでも大丈夫ですよ」


「じゃあ今から行こうか………明!少し出掛けてくる!」


「おう!わかった!」


 そして俺は300年後の町へと繰り出した。

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