歪みと願い

「そして現在に至ります。」


 俺達がどのようにしてこの世界に転がり込んで来ることになったのか、それを一通り話した後、俺達は皇女様に【歪み】について聞いたのだった。


 皇女様のこの世界に関する説明の中で、前世での私、「ヴァリアス・ヴァンクリーフ」について触れていた。


 この世界の人々が英雄と言うと、「私」のことを指す。しかし、正しく伝えるならば英雄のうちの一人にすぎないと思っている。自分で自分のことを英雄と指すのもおかしな話だが、慣れというものは恐ろしい。


 仲間に「自分だけが英雄といわれるのはおかしい」と話したところ、英雄なんて仰々しい称号はいらない。と言っていたが、それは私も同じだ。


 神に授かった称号は「ヴィル」。前を進む者という意味らしい。という大袈裟なものだが、英雄なんて呼ばれる人間じゃない。


 武器を担ぎ、敵の群れに突っこみ、葬る。私がしてきたのはそれだけに過ぎないし、それが私の役割だった。


 前衛三人、中衛二人、後衛二人


 それを基本とする七人のパーティー。


 私はそのうちの前衛。


 ついでに言うと、後衛の片方がアーデである。


 唯の人族が仲間と出会って行き、邪神を討つ。


 まるで勇者の物語だ。と誰かに言われたことがあったが、実際はそんなものではない。


 他の五人も……いずれ会いに行こう。


 そう、過去の感傷に浸りながら聞いていた。

 遥か後の孫娘から自分のことを聞く、というのはなんとも無図痒いものがあり、始終変な顔をしていたかもしれない。


 さて、これからのことを考えよう。


 まず、俺たちは【歪み】という名の異世界転移に巻き込まれた。

 いや、違うか。【歪み】によって転移させられた。というのが正しいのだろう。


 転移した場所と状況が状況なだけに、皇族と出会うということができた。


 このコンタクトは大きい。


 本来、上位の人間に謁見するとき、何らかの功績をたてなければならない、というのが基本だろう。

 だが、俺たちの面倒を見ることのできるだけの財力や守ることのできる武力。これを持っている皇族の協力を得られるかもしれない。


 次にこちらの能力だが、強制的に移転させられたが、教室まるごと転移したため、スマホ、パソコン、電子辞書などの電子機器も健在、無論電波は立っていないが。


 魔法を使えば充電くらいはなんとでもなるだろう。


 それを踏まえた上でこの世界で優位な位置に着くためには、やはり、知識でどうにかするしかない。


 きっと頭のいい皆のことだ。


 もうそのくらいのことは察しているはず。



「つまり、その【歪み】の原因を解明し、もう一度【歪み】を私達の世界に繋ぐ、もしくはそれと同じようなことをしなければ地球には帰れない。ということか……」


「そう…ですね」


 青木先生の独り言のような呟きにアーデが答える。


 そう、とは簡単に言えるが、問題はかなり難しいだろう。


 地球に帰るためには、【歪み】と同じようなものを使う。つまり、空間と空間を繋げる必要がある。


 つまり、人には使うことのできないはずの。時空間魔法を使わなければならないということだ。


 つまり、自分から魔法を使うのは無理であるわけで。


 時空間魔法を使えるのは邪神アルカディアとその眷族のみ。


 因みにどちらも滅ぼしている。


 少し違和感のある答え方から考えるにアーデも同じことを思っていたのだろう。


 つまるところ、現状どうしようもない。


【歪み】を解明することしか現状でやれることがない。


 そして例えわかったとしても帰れるとは限らなかった。


 アーデもこの事を話すかどうか迷っているように見える。


「あの、私達に何か手伝えることはないのでしょうか?」


 控えめに手を挙げて発言したのは、うちのクラスの副委員長。メガネでお下げの女生徒だ。大きい。


「私たちには魔法の知識こそないけれど、科学が発展してきた世界に生きてきた者として、ある程度の知識は持ってます。戦うことはできないにせよ、調査ならできるのではないでしょうか?何もしないで、ただ待ってるだけなんて私には出来ません。」


「そうだな。何もしないなんて選択肢はどちらにせよ無いんだ。ここでも仕事を見つけて働かないと、お世話になるって訳にはいかないわけだし。」


 大賢者様達に頼りっきりになるわけにはいかない、と委員長が賛同する。


「とはいっても、少しは戦う力は欲しいよな。自衛の為にも。話を聞くに化物共が蔓延る世界なんだろ?」


 そうぼやいた明に、皇子様がはっと何かに気がつき、アーデに訊ねた。


「大賢者様、この者達に祝福の儀を行って頂くことは出来ないでしょうか。異界の者とは言え、加護なしではこの世界で生きていくことはかなり難しいかと。それに彼らも戦う力を望んでいるようですし。」


「はい、私もそう思ったところですが…。」


 祝福の儀。それはこの世界の大神や七柱の神々やその眷族の力の一部を分けてもらい、加護を得る儀式の事。


 加護が多いほど、もしくは上位の加護を得ればそれだけ肉体が神に近づく。


 そのために寿命も延びるのだ。前世での私が300年生きたように。


 そして、


 「祝福の儀は本来、魂が体に定着するといわれる3歳の時と、15で成人した後の二回。」


 「皆さんはおいくつですか?」


 「15と、16ですね」


 「!?なんとそれは。」


 二回目の儀を受ける年であると告げる。


 「今はちょうど儀を行う集神の月…」


 「しかも15になったばかり…」


 「まあ、なんて運のよい…」 


 俺でもびっくりするような運のよさにアーデ達も驚きを隠せていない。


 アーデは、ふう、と息を吐くと俺たちにこう言った。


 「皆さんにご提案が。祝福の儀を受けては頂けないでしょうか?」


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