再会
先ほどの巫女が地上に繋がる階段を登って行った。
指揮官らしき人に何か話していたので、大賢者に話をしに行ったのだろう。
さて、どうしたもんか、と床に座ると、そこに明がやって来た。
「なぁ秀、これ、どうなってるんだ?」
「俺に聞くなよ、明」
肩を竦める俺に、だよな、と明が頭を掻く
「でもまあ、わかることもある」
「本当か!」
多分皆よりはこの状況についてわかっているだろう。
「そんなたいしたことじゃない。けどまず、この状況はお互いにとって望んだ状況じゃないってことだ。」
少なくとも向こう側が意図していたことと違うことが起こっている。
「ん?つまり?」
「この事件において、彼らを責めるのはやめておいた方がいいということだな。」
現状況では、特に。
「…ん?」
明にも思わせぶりなことを言っておく。
もしこの意思疏通のはかれていない状況で、彼らを責める、ということをすれば、彼らから攻撃されかねない。
そこに思い至った俺は、俺達がいる広場の中心に近い場所に移動し、もう一度座り直す。何かあったときのために体に魔素を蓄え、魔力に変換しておこうと思ったからだ。誰にもバレないよう、ひっそりと。
(さて、この体が魔力をどの程度貯めることができるのか……ふむ?)
そして、魔素を蓄えようとして、やめた。
とある魔力源がこちらに近づいてきたことに気がついたがらである。
そして、階段から《彼女》が現れた。
白金に近い金色の髪に、海の様に深い蒼い瞳と、長い耳が特徴的などこか儚げな女性。生前には見せていた何処か幼げな雰囲気はなくなり、淑とした空気を纏っていた
(アディ…)
懐かしい人の登場に思ったよりも動揺する。
地上にいる。ということはわかっていたが、いざ目にしてみると様々な感情が沸いてくる。
(あぁ、まずいな)
泣きそうだ。
生前の記憶が脳裏に浮かんでくる。
上を向き、目を閉じて深呼吸をする。
そうでもしないと、アディに私だと伝えてしまいそうだ。
伝えてしまってもいいような気もするが、そんなことをすれば、やはり余計な騒動を生むだけだろう。迷惑はかけられない。それに俺は青井秀一だ。英雄と呼ばれていた私ではない。それは割り切って、区別したはずだ。
手を握りしめて咄嗟にこらえる。
アディの登場に、おお、と、場ががざわめいていた。
それもそのはずだ。彼女はただでさえ見目麗しいエルフ、その頂点に君臨する王族ハイ-エルフなのだから。
アディが杖を振り翻訳魔法を発動させた。
キラキラと光の粒子が頭上から降り注ぎ、アーデの魔法が俺達に掛かる。
精神に干渉する魔法の一つ翻訳魔法。元々は概話魔法と呼ばれていたそれは、対象どうしの精神を繋げて、自分が思っている概念を相手に伝えるという魔法。
言葉ではなく概念を伝えることによる伝達手段のため、言語の壁はもちろん、音によって意思疏通を図っていない種族との壁をも砕いた。
それを音声のみにしたものが翻訳魔法である。
仕組みとしては、相手が話した言葉。その語彙の概念を声に乗せて対象に伝える。そうすることで相手の知っている概念と言葉を結びつけることで、自分の言葉を理解させるいうもの。
知らない概念だと通じないのが難点
考案はアディ
「皆さま私の言葉がわかりますか?」
「はい!」
青木先生がそう嬉しそうに答えた。
あ、良かったね先生、言葉通じたよ。
「アーデリア様、ありがとうございます。」
指揮官が頭を下げる。
「いえ、これも私の仕事ですから。しかし……」
顔を歪めたアディを見るに、やはり想定外の事態が起きているらしい。
「ともあれ、この方々は敵ではないでしょう。ともかく悪意は感じられませんから。」
そうして俺たちを見回して声をあげた。
「皆様も混乱させてしまったと思います。私は
クラスメイトにアディの自己紹介は衝撃的だったようだ。
エルフ、賢者、
およそファンタジーでしか知り得ない単語。
クラスメイト達には、ここは地球ではないのだと理解するのは簡単だった。伊達に進学校特進クラスではない。
「エルフ…だと…」
「…何か?」
「あ、いえ、何でも……」
アーデの特徴的な長い耳に釘付け担っていた青木先生にアーデが声をかけると、先生は目をそらし手を握りしめた。心なしか嬉しそうで、頬がピクピクしている。
アディは身を翻し、来た階段を登っていく。
青木先生がそんなアディ達を見て、みんな付いて来るんだ。と号令をかけた。
鼻息が荒い。
地下神殿から地上に伸びる階段を登り、様々な装飾が施されている古めかしい回廊を通る。絵画だったり、甲冑だったりと、
途中途中、みたことのある懐かしい物に目を取られながら、地上階にでた。
ふと、違和感を感じる。
光がさしていた。
床に窓枠の十字が写っている。
あの暗かった回廊に、光があった。
窓から外を見ると、そこには、
美しい「青空」があった。
心がスッと音をたてた。
三百年にも渡る私の戦いは、報われていたのだと。
どこか不安だった。私の人生は無駄だったのではないかと。
けれど、
黒い灰が降っていた空は、青かった。
瓦礫に埋もれていた神殿は、緑の木々に覆われていた。
障気は限りなく薄くなり、潤沢な魔素が満ちていた。
きっと私が死んだ後、みんなが頑張ったのだろう。
邪神が復活したのではないかと、何処か思っていたが、しかし、どうやらそういうわけではないらしいことに、
(よかった。本当によかった。)
安堵が心に広がる。
そのまま少しの間、青く、白い雲の漂う、壮麗の蒼穹を見上げていた。
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