オリヴァー商会
「しかし、この商会に一体なんの用があるのですか?」
そう聞いてきたルルに考えていたことを語る。
「この商会に地下室があるってことを知らないか?」
「オリヴァーの隠し倉庫のことですか?」
「ああ、だぶんそれの事だ」
オリバー商会は元は剣聖の開いた酒場だ。あの大戦で左腕を失い、左足が麻痺し動かせなくなった奴は、子供の頃からの夢だった酒場を開いた。そして、その酒場を開く際、酒場の地下を倉庫兼別荘として借り受けたのだった。
まあ、地上に戻れば、酒好きの奴がいろんな場所から仕入れてきた上質な酒が飲めるからという理由が大半を占めたのだが。
「彼の英雄が使っていた道具を保管してあると言い伝えられています。ここは大戦後、彼ら英雄様達の拠点だったとか」
「それだ、間違いないね」
「入口の扉の仕掛けがとんでもない難易度だということで有名ですね。多くの方が挑戦しましたが、いまだ破られたことがないとか。しかし英雄の遺産が保管されているとかで、挑戦者は後を絶たないとか。」
「それ、他の英雄達は何も言わないのか?」
「特になにも、大賢者様は『好きにしたらいいんじゃない?』とおっしゃってましたね。」
そうこうしていると、先程の職員が帰ってきた。
「お、お待たせいたしました。客間にご案内いたします。」
やはり、何も伝わってなかったらしい。
(別に今日でなくても良かったのだが、早い分にはまあいいか。)
そう思い、返事をする。
「はい、お願いします。」
そして、ルルと職員のあとを追う。
職員は階段を上がり、二階にある、客間に俺たちを通した。
すると中には初老の男性と、その秘書と思われる女性がいた。
「初めまして、私はクラネル・カルステッド。ここ、オリバー商会のオーナーです。彼女は秘書のサシャ・カルステッド。私の娘です。」
そう言って二人が頭を下げた。
やはり貴族だと思われているらしい。
ルルからの視線が痛かった。
「失礼ですが、貴方は…」
オーナーが、申し訳なさそうに聞いてくる。
しかしこちらとしても、はい、異世界から飛ばされて来た学生です。とは言えない。もちろん、ヴァリアス・ヴァンクリーフです。とも。
「オリヴァーの隠し倉庫の挑戦をしに来たんだが、タイミングが悪かったな」
「なるほどそういうことでしたか。かまいませんよ、いつ何時誰であろうとも挑戦することができる。としていますからね」
それではといって、「鍵」であるネックレスを渡された。
「ご存じかとは思いますが一応ご説明しますね。まずこの宝玉が鍵であると伝えられています。制限時間は3時間、階段に足を踏み入れてから時間を計らせていただきます。それともし開けることができたのでしたら。中のものはご自由にしてもらって構いません。」
その言葉に少し驚く。
「すべて自分のものにしてしまっていいのか?」
「はい、それが初代様の言いつけですから。」
オーナーに先導されて、二階の奥の方にあるオーナー室に入る。
オーナーは本棚に近付き、本の奥に手を伸ばすと、カチッという音がした。
そして本棚を横へとずらすと。そこに地下へと続く階段があった。
「随分と大層な作りになっているんだな」
「はい、先々代が改築した際にこの通路をお造りになられたそうです。」
「なるほど、案内ありがとう。」
昔は木の床をカポッっと開ける。という、かなり適当な作りだったので、どれ程大切に管理されていたかわかる。
(それには感謝だな。)
「さて、行くか、ルル。」
さっきから驚きっぱなしで静かになっていたルルが、怯えたような声を出す。
強気の彼女が、珍しく幼げな表情を見せていた。
「何を躊躇う?君は俺の秘密を暴きたいのだろう?」
「…そうですね、わかりました。」
何か覚悟を決めたような表情で返事をした。
(特にこれといったことはないんだけど)
「では三時間後、お迎えに上がりますのでそれまでどうぞお気を付けてくださいませ。」
オーナーの言葉にうなずくと、俺たちは地下への階段を降りていった。
石造りの階段が、静寂のなかを俺とルルの足音を反射させていた。
しばらく降りると、扉に突き当たる。
「ここ、だな。」
「扉…ですか?」
「ああ、」
様々な紋様が描かれていて一種の壁画のようになっている扉がそこにはあった。かなりの年月が経った割には綺麗なもので紋様も欠けることはなく、色彩も欠いていなかった。
俺は、オーナーが持っていたネックレスの装飾品だけを取り外す。
そして、扉にある半球状の窪みにそれを入れる。
そして、上位の加護を持つ者の魔力を流す必要があるのだが。残念なことに今の俺には魔力がほとんどない。
「すまん、ルル。こう、この宝石を扉にくっつけるようにして押し当てて、魔力を流してくれないか?」
「はい、わかりました…」
そしてルルは一度深呼吸をすると、扉に手を当てる。
そして少しずつ魔力を流していくと、徐々に扉に紋様が浮き上がっていく。
上位の加護持ちの魔力でなければ発動しない仕掛けがルルの魔力によって起動していく。
今の俺には加護が無いため、ルルの魔力に頼るしかない。
「少し借りるぞ。」
そう言って壁に浮かんだ紋様を、ルルの魔力を操って動かし、あるパターンに直す。
すると、ガチャコン、という音がして扉の鍵が解除された。
「よし、入るか」
「いともたやすく!?」
「なんだ、入らないのか?」
「うっ…はい」
そうして地下室に足を踏み入れた。
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