地下室
地下室の扉が開く。中へ入ると、天上に設置されている自動魔灯に明かりがともった。
光に照らされて姿を見せるのは、普通の民家とそう代わりのない石造りの内装。窓がないことを除けば地上といわれても疑わないかもしれない。
「魔灯がついた?」
通常の魔灯は、魔素の結晶である魔晶石や魔物の体内で瘴気が溜まってできる魔石を加工したものを電池のように付け外しすることで、明かりをつけたり消したりする。それがにもかかわらず、ここにある魔灯が何もせずに明かりがついたことに驚いているようだった。
「ここのは特別製で、正確には自動魔灯っていうんだ。ここの地下には地脈が通っているから、そこからくみ上げた魔素を使って点灯させている。それから感知魔法の応用で人の出入りによって、点灯と消灯まで自動でやってくれる優れものだ。」
「そんなものが...それに地脈ですか...。確かに地脈は多くの魔素が地中を流れているものですから、魔素は多いでしょうね、ですがそんなに魔素が溢れているようには感じられないのですが?」
そうなのだ、普通地脈や霊脈のようなものはそのそばに行けば行くほど大量の魔素にあてられる、魔素酔いになることが多いのだが、そこにはとある工夫がされていた。
「この地下室の石材がね、アダマンタイト鉱石でできてるんだよ」
「アダマッ!!ってホントですか?これ全部!?」
驚くのも無理はない。アダマンタイトとは地殻中に含まれるある金属がものすごく長い間魔素にあてられることによって変性してできた魔金属である。その驚くべき特性とは、魔素の干渉を受けないことである。別の言葉で言い表すとすれば魔法の無効化である。アダマンタイトで作られた防具はいかなる魔法をも無効化してしまい。武器はいかなる障壁も破り去るのだ。もの凄く貴重な魔金属であり採掘量は微々たるものである。
「アダマンタイト鉱石で覆ってるから、いかに地脈の中であろうとも通常の魔素濃度を保つことができるんだ。」
酒場の地下を掘ってたら、たまたまそこが地脈だということに気が付き、これはもしやと思って掘り進めていたら希少魔金属の鉱床にぶつかった。ちょうどいいやということでアダマンタイト鉱石を石材に使ってみたら空気中の魔素の変動量が少なくなったため、これはいいということで、魔素の変動によって誤作動を起こしてしまう精密機器などを持ち運んでいたりなんかしたら、ただの地下室から立派な研究所になってしまったのはご愛敬である。
「さて、今日はこのくらいにして一先ず宿舎に帰るか。そろそろ皆も何かしら動く頃だろう。」
少し待っていてくれと、本来の目的であった金になりそうなのものを探す。
元々私が使っていた部屋の隅の、これもまたアダマンタイト製の棚を開け、袋を一つ取り出す。
「それは?」
取り出した袋の中身を聞いてきたルルに、持ってきた袋の中身を見せる。
「こ、これすべて魔石ですか!?それもどれも凄く大きい!魔力もいっぱい溜まってます!こんなの今ではめったに手に入らないですよ!!」
と予想通りの反応を見せてくれた。やはり魔物のいなくなってしまった世界で魔石は手に入らないのだろう。
「まあ、大戦時代の遺物だからな、これでも小さい方だぞ?」
「これで…小さい……?ってなんでそんなこと知っているんですか!!」
ワタワタし出したルルを見て思わず笑ってしまう。そして帰るぞと言って地下室の扉を閉め、商業ギルドに戻った。
地上に戻ると、まだオーナーとサシャがいた。
「随分とお早かったですな。」
「今日は下見だけだからな」
「え?」
ルルが何へ依然と嘘ついてるんだこいつ、という目で見ているが無視。
鍵をオーナーに返し、そして後日また来るとだけ言って去った。
外はまだ人が多く歩いていた。
明日、時間があったらまた来よう、そう思いながら、人の波に逆らうようにして、宿舎に戻った。
「その黙っていて良かったのでしょうか?」
ずっと黙っていたルルが再起動する。
「あんまり騒がれるのも嫌だからな」
そうそっけなくかえすと、そうですかと言ってまた黙ってしまった。
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