異世界英雄の再召喚
@gacho
プロローグ1
暖かな西日が差し込む病室。
カーテンが風に揺れ、枕元に置かれた花瓶の花が頷くように揺れる。
そんな麗らかな部屋で、一人の男が床に伏していた。
世界と人々に害なす悪しき神々とその眷属と戦い続け、世界に安寧と平和をもたらした男。
その英雄が今、長い、長い人生を終わらせようとしている。
妻が彼の左手を握りしめ、目尻に涙を浮かべている。彼の周りにも、涙ぐみながら治癒魔法をかけている神官や、隣の者と肩を抱きあって震えている者。涙を流すまいと天井を見上げながら、決意の表情を浮かべている者。人々の後ろで、一人、杖を抱き盲目している者、等。
彼ら彼女らを見るだけで、この英雄がどれだけ人々に愛されていたことがわかるだろう。
ふと、彼が目を開けると、どよめきが起こる
人々がベットに身を乗り出して声を掛ける。
英雄が口を開けたが、声が掠れ言葉にならない。
彼は一呼吸おくと使いなれた魔法を編み、自らの声を彼らの頭の中に響かせる。
曰く、お前らなんて顔してやがる、ただの死にかけの見送りのために仕事さぼってんじゃねえよ、と。
いつも通りの彼に、周囲に笑みが戻る。
だが、もう彼に残された時間は少なかった。
彼は治癒魔法をかけている神官に、もういい、お疲れ。と、声をかける。
神官は首を横に振り、流す魔力を増やす。
その事に彼は薄く笑うと、はぁ、と、深く息を吐いた。
そして、まぶたを閉じる
様々な思い出が瞼の裏に甦る。
辛いこともあった。戦いのなかで多くの仲間も失った。
だが、充実した人生だったと、誰にでも胸を張って言えるだろう。
満足な人生だったと。
そう思う。
この世界の未来を作れた。
それで十分だ。
目を開ける。
隣にいる妻に顔を向け、微笑むと
妻も同じように笑いかけた。
そして…
一人の英雄がこの世を去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます