第16章

次の日。

ガラガラッ

「おはよー、、、」

私はいつものように余裕を持って登校し、無造作に自分の組のドアを開けた。

「、、、」

帰ってきたのは、沈黙。

おかしい。そう思い改めて中を見ると、真ん中に、数人の男子に囲まれるようにして立っている大翔が見えた。

「みんな大翔を囲んでどうしたの?」

私は、沈黙に耐えられなくなって口を開いた。すると、一人の男子が答えてくれた。

「高野と大翔、昨日も一緒に来て帰ってたし付き合ってるんじゃねえかって噂になってて。今確かめてたとこ」

それを聞き、鼓動が一気に速くなる。大翔はなんて答えたんだろうか?

「ま、大翔は辻本のことが好きって言われてたし確認って感じで聞いたんだけど、大翔は何も言わなくてさ」

「大翔は違ったら違うってはっきり言うし、正直もう付き合ってんのは確定なんだけど、一応本人たちから言ってもらおうと思ってるんだよな。高野、バレてるから白状しろよ」

さっきの男子に続けて、二人の男子も次々と言っていく。ここで「付き合ってる」と言えたらどんなに良いだろう。でも、そんなことは言えない。私には、

「付き合ってないよ」

と言う道しか残されていなかった。

「嘘だな」

「嘘だ」

「絶対違う」

「違うな」

しかし、みんなにあっさりと否定された。私の言葉を待つように、みんなは私を見ている。でも、既に事実を言ってるのだから他に何を言えばいいのだろう?

混乱した私は、助けを求めた。

「あの、、、一回大翔と二人で話したいんだけど、良い?」

その言葉を聞いた途端、みんなはニヤッとした。

「もちろん。二人で覚悟を決めるんだな」

「、、、じゃあ大翔、ちょっと来て」

私は、大翔の顔を見ずにスタスタと廊下へ出た。

「「、、、」」

二人きりだが、切り出し方が分からず思わず黙ってしまった。重い空気を破ったのは、大翔だった。

「ごめんな。朝、友達に呼び出されて、相談かなと思って行ったらこんな感じだった」

私は軽く頷く。

「私は大丈夫。でも、大翔は好きな子に誤解されちゃうから困るよね、どうしたら良いのかな?」

「それはアイツらが飽きるまで待つしかないと思うけど」

その事なんてどうでもいいって感じで言った大翔に、私は驚いて顔を見たが、表情から思いは読み取れなかった。

「そっか、、、私のせいで、本当にごめん」

「うん。俺こそごめん、苦労させるよな」

「いいの。私は自業自得だし。本当にごめんね、、、じゃあ、私は教室に戻るね。とりあえず、また騒がれると困るから大翔は来ない方が良いと思う」

私は、大翔への気持ちをみんなに言おうと思っていた。だって、絶対にバレるしそれなら打ち明けて口止めした方がいいと思ったから。

私がドアを開けて教室に入ると、すぐに男子に囲まれた。

「で?結局、付き合ってんの?」

私は一回間を空けて一気に言った。

「付き合ってないよ。私は大翔が好きだけど、大翔は由紀が好きみたいだから」

「、、、、、」

ワイワイガヤガヤしていた教室が、一気に静かになった。まぁ、私もそれだけのことを言ったっていうことは理解しているつもりだったけど、、、静かすぎる。

私がひたすら誰かが喋り出すのを待っていると、

「ぷっ」

、、、え?!は?吹き出されたんだけど?!

目の前にいた男子が、思い切り笑った。

「お前、そんなの言わなくて良いんだぞ?それ言って損しかなくね?」

「でも、どうせバレるかなって思って。だから、その、この事は秘密でお願いしてもいいですか、、、?」

私は、必死に頭を下げて言った。

少しの静寂の後。

「ま、良いけど」

「俺も」

「大翔には90パーくらい言わないと思うから大丈夫」

「本人たちでやってもらった方が見てて面白いしな」

概ね好意的な反応をされ、私は頬を緩めた。

「ありがと、みんな!別に大翔と付き合いたいとか、身の程知らずな事は考えないから、大翔の事だけを考えてあげて」

「お、、、おぉ」

なんだか引かれたっぽいけど、気にしない。私が求めるのは大翔の幸せだ。

「告白、しないのか?」

一人の男子が、ぽつっと言った。

とりあえず、答えることにする。

「しないよ。好きな人のことを一途に思ってる大翔を困らせたく無いもん」

「ふぅん、、、ま、良いけど。頑張れよ」

私は、心があったかくなるのを感じた。

「ありがと」

笑顔で頷いた私を、男子たちは微妙な顔で見るのであった。

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