第11章

その日の朝。私はなんとなく思い立って大翔の家まで行った。集合は私の家の前に午後3時。夜のイルミネーションを楽しむ為にちょっと遅めの待ち合わせだから余裕がある。

ピーンポーン

推し慣れたインターホンを躊躇いもなく押して私は反応を待った。少しして、ドアが開き大翔が出てきた。大翔の家は、私と同じで共働きだから多分平気だろうと思っていたけど、案の定。

「お、真衣!おはよう。入っていいよ」

あっさりとオーケーが出た。

「あ、今日で1ヶ月だっけ?」

もしかしたら別れるかもしれないお試し期間なので、あんまり他には言っていないし、由紀には愛し合っている彼氏さんがちゃんといて、怒られる心配があったので言っていないけど大翔には報告したんだ。相変わらず大翔はすごく察しがいい。

「そうなんだよね。だから今日結果を出さないといけなくて」

いつものように出されたお茶を一口飲み、広いテーブルに向かい合って座った。

「あ〜、真衣にとって大変なことだよな、決断するのって大変だし」

「そうそう。大翔は分かってくれるよね!!ほんっとそういうとこすきだよ」

最近悩むことから逃げられていたのに、考えないといけなくなってしまったストレスがあった私は、察してくれる大翔の好感度が急上昇していくのを抑えられなかった。すると大翔は、

「、、、ッ」

真っ赤になってしまった。

「え、、、?」

特に変な事は言ってない、、、よね?前にもこんなことを言うことはあったはず、、、私が戸惑っているのに気づいたのか、大翔は慌てたように言った。

「あ、ありがと。で、、、どんな感じに思ってるんだ?」

「うん。1ヶ月卓也と付き合ってみて、凄く楽しかったんだけど、、、」

「楽しいっていうだけじゃなんか理由にならないって思うのか?」

「そ。なんか、楽しいのは本当なんだけど、好きかってなると分かんない」

「そっかぁ〜、、、好きっていうのが分かんないのはちょっとな」

大翔も少し苦い顔。

「ほんとに、この話題で何回もごめん」

「全然大丈夫だよ。真衣のその悩みは、好きじゃないのに付き合って相手を傷つけないようにって言う気遣いだろ?」

「いやいや。そんなことないよ、、、大翔は優しいよね。それで彼女がいないのが不思議なくらいだよ」

大翔は、私が知る限り彼女がいたことがない。好きな人はいるみたいなことを言っていたこともあったけど、、、沢山告白もされてるはずなのに断っちゃうんだよね。

「まぁ、俺は好きな人が振り向いてくれるまでひたすら待つタイプだからな」

「そっかー、そんなに脈なしなの?」

私は、大翔を助けてあげたくなって言った。もしその人が私の知ってる人だったら手伝いたい。

「どうだろうなぁ。でも、俺の気持ちに気付いたら対応に困って離れていく気がする」

そんな人、いるのかな?

「大翔は顔もカッコいいし、スタイルだって抜群だし、、、振る人なんていないと思う」

「そうかな?ま、もう少し待つつもり。それより、今日は真衣だろ?俺は今度相談するよ」

大翔に好かれてる人は凄いと思う。大翔がそんなに夢中になるのに、気づかないなんて本当に鈍感だよね。

「そうだね。卓也の、オーケーしちゃって良いのかなぁ」

「うーん、、、」

大翔は少し考え込んでから言った。

「他の人より、卓也と一緒にいたいって思うか?」

今度は私が考え込む番だった。

「えっと、、、卓也だけでは無いかも。大翔とか由紀と同じくらい一緒にいたいって思う感じ」

「じゃあ、卓也の笑顔をもっと見たいって思うか?」

「んー、大翔とかと同じかな」

「卓也の笑顔見たり、一緒にいたりするとドキドキするか?」

「え?んー手を繋ぐとドキドキするけど、、笑顔は見慣れちゃってるからなぁ」

「俺が今聞いた限り、そんなに卓也のことは恋愛対象として見てない感じがするけど、卓也とこれからやっていけるって思うなら付き合ってもいいと思う」

私は考え込んだ。

「卓也とはこれからも一緒にいたいとは思ってるけど、付き合ったり結婚したりっていうのはあんまりなんだよね、、、」

「そうか。ここからは真衣が考えることだ。でも、多分もう真衣の中で答えは出たよな?昼ごはん食ってくか?」

「うん!私も作るよ」

大翔の家でご飯を食べるのは初めてでは無いけど、いつもはご飯は食べずに帰っていた。なんとなく、卓也と違って大翔は「男の子」って言う感じだから。卓也に申し訳ないけど、大翔は男の子っぽくてその分ミステリアスな感じがする。そういうの、卓也にはない。

「今日のメニューは何の予定?」

「んー、真衣もいるしフレンチトーストでも作るか」

「フレンチトースト簡単だし美味しいよね」

「だよな。俺結構作るんだ」

「じゃあ、私パン切るから大翔は卵係ね!」

「なんか卵係ってなんか下っ端っぽい」

「なんでも良いけど、卵用意してね!」

「はいはい」

大翔といると自然に笑顔になる。卓也や由紀と同じように一緒にいると安心できるんだ。

「よし!終わったね!あとは待つだけ」

「そうだな、待つ間にトランプでもするか」

「いいねぇそれ!懐かしい!」

それから私は、大翔とフレンチトーストを食べた。私は、自分の心が軽くなったのを感じた。大翔はいつもそう。一緒にいるとなんだか凄く楽になるんだ。


そして、待ち合わせの時間になった。

「真衣!」

「あ、卓也!」

「遊園地楽しみだな!」

「そうだね!ジェットコースターいっぱい乗りたい!」

「が、頑張る」

私たちはいつも通り仲良く話しながら移動した。でも、やっぱりこの関係が今日で終わるっていうのを意識しちゃうみたいでなんとなく雰囲気が重い。。。

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