第20話 FA ファンタジー生物
「宮下がストーカーかどうかは直接話すほか知ることは出来ないと思います」
事実、宮下あやめは山田兄のストーカーをもう行っていない。残念だが彼女の目的もわからない今、彼女の行動を先読みすることはほぼ不可能だろう。
通常の人間であれば、先輩が仲良くなり心の奥底を読み取るという手段も取れる。だが今回はその手は使えない。なぜなら彼女の心は読めないからだ。それは僕よりも先輩の方がよく知っていることだろう。
「私もそうは思いますが……ですが直接話したところで本当のことを話してくれるとは思えません」
先輩が言うことはもっともで、先生もそれに同意する。
「そうだな。俺たち教師にまで能力者であることを隠し通したやつが、簡単に事実を話すことはないかもしれない」
先生はそういうと深く考え込んで、少しだけ時を置いてまた話し始めた。
「だが……お前たちに能力を見せた理由は一体なんだろう?」
「わかりません。ですが、誠君や私に近づくためにわざと見せたのかもしれません。そうなると……」
先輩は思い出したくもないようなことを思い出したようだ。少しだけ不快そうな顔をしている。おそらくだが、彼女と初めて会った時のことを思い出しているのだろう。
「どうした?」
詳しいことを知らない先生は、先輩の顔を見て疑問に思ったらしく不安そうに尋ねた。
まあ僕もあまりいい思い出では……なくもないのだが、ともかく先輩の代わりに説明することにした。
「えっと……ですね――」
僕はあの日のことを鮮明に思い出して、先生に説明した。宮下アヤメの突拍子もない行動や、彼女からの依頼について、僕は思い出せることをできるだけ詳しく話した。
しかし、そこからは彼女の目的が割り出せるわけもなく、結局のところ悩み相談みたいなものになる。
「なるほど、わからん。つまりどういう話なんだ。唯の自慢にしか聞こえないのは俺だけじゃないよな」
先生がそう思うのも仕方がない。僕だって、突然かわいいやつにキスされたんだけどどうしよう、なんてことを聞かれたらその相談者に対しては、心配心よりもはるかに大きい嫉妬心を抱くに違いない。潔癖症のやつからしたら不快極まりないことであるが、美人のキスほど羨ましいものはない。
とはいっても、先生が生徒とキスしたいなんてことを考えているわけではないだろう。もし考えていたとしたら懲戒免職ものだ。いや、普通に考えて逮捕案件だろう。
だがここまでの話をまとめて、僕はあえて言おう。
「自慢じゃないです。確かにちょっとだけ話を聞いただけであれば、自慢話にも聞こえるかもしれない。ですがよく考えてみてください……一度しか話したことがなくて、別に好きでもない相手に通り魔のごとく接吻される。それがどんなにつらいことかわかりますか!?」
「そりゃ確かに少しぐらいは不快感を抱くかもしれんが……」
先生の返答は何とも歯切れが悪い。もしかしたら、先生は生徒に対して欲情するような社会不適合者なのかもしれない。
「先生……?」
僕は自分の疑問を明らかにするために、それを口にしようと思ったが、もちろん確信がないのに人を犯罪者扱いなんてできるはずもない。
しかし、先生は僕に対して情けなさそうな目を向けて言う。
「そんな嬉しそうな顔で言われても説得力に欠けるが、な」
別に僕はそれほど嬉しそうな顔を意識していたわけではない。若干、心の中身が漏れてしまったというだけのことだ。そして、それは今重要なことではない。
「脱線してしまいましたが、ともかく僕は宮下の能力を見ました」
「それが人に心を移す能力というわけか……だがそんな能力は聞いたことがない。心を奪う能力というものはあれ、与える能力なんて……そんなものもはやファンタジー生物でも何でもない。神に近いとしか言いようがないな」
「いや、だったら僕の能力だって、まるで悪魔の能力みたいじゃないですか? それなのに神だなんてちょっと大げさですよ」
僕は皮肉めいた言葉を含みつつも、先生の意見を否定する。
人間に対して神なんて言う大きな存在を当てはめるなんて罰当たりだ。なんてことは言わないし、というよりも、僕は無神論者だ。FAだなんて言う存在でありながら、神の存在を信じていないというのも少しおかしいかもしれないが、ともかく僕は神を信じていない。
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