第11話 襲撃

11話


「へぇ、二人ともあの有名な和の国から来たんだ」

「あのってのは何だ?」

「僕等の国では美と自然、食文化が発達している国と聞いているよ。特に和食は有名でヴァールテクス以外の都市でもお店を見かけるね。僕達も良くお世話になっているよ」

「なるほどな」

「ちなみに僕達の国はどう思われているのかな?」

「それはなーー」


 あれからレイの抑えていた魔導車に乗車しリンダスに向かう事になった俺達は移動までの時間を雑談で潰していた。


「エミルちゃんの格好って可愛いよね。何だかお人形さんみたいだ。確か和の国ではこうした格好をなりきりって言うんだっけ?」

「それ! 私も思ってたわ。ジークさんのシンプルなシャツとデニムも良いけど、エミルちゃんのゴシックな黒のワンピースに白のニーソックス、そして両手につけた白い手袋。大きなリボンのついたつばの広い帽子に履いてるブーツも全てが完璧だわ! こう、じっと座っているだけでもう可愛い! この服装を選んだ人は素晴らしいわね。これはダインが見惚れるのも無理ないわ」

「ばっ! 見惚れてねぇよ。いきなり語り出したと思ったら急にこっちふるなよな」

「あはは、何時ものことだけどアンナは服への食いつきが半端ないね。何だかごめんね、二人とも」

「いや、驚いたが大丈夫だ」


 この喧しい二人はレイの連れで、魔導車を抑えていたアンナとダインだ。


 この二人とレイも含めてお互い歳が近いこともあってか車に乗ってからはまるで、親しい友と接してるかのような会話をしてくる。


 初対面の人からこんなにも友好的に話しかけられた経験が無い俺は、何を話したらいいか分からなかった。


 服を選んでくれたカナンさん達の話でもする? でも俺は服にはそこまで詳しくないし、正直アンナさんが言っていた言葉の半分以上はわからなかった。


「......」

「エミルちゃんは気に障っちゃったかな?」

「いいや、エミルは初対面の人がいると基本無口だからな。別に怒ったとかではないと思うぞ」

「そうなのかい?」

「ねぇねぇ。気になったんだけど、ジークさんとエミルちゃんはどういった関係なの?」

「俺達の関係か? そうだなぁ、言い表すのは難しいな」


 ころころと変わる話題をもはや聞くだけになっていると、俺も興味のある内容になった。そう言えばジークは俺との関係をどう思っているのだろう。少なくとも嫌われてはいないと思うけど。


「あ、誤魔化したわね」

「おい、その辺でやめとけ。これ以上根掘り葉掘り聞くのは野暮だろ」

「あー、それもそうね。二人で一緒に外国に来るぐらいだから、そう言う関係よね」

「うん、うん」

「......」


 今回はアンナ達の想像を違うとは言えなかった。だってジークが言葉を濁したのは俺の素性を話さないためだから。


「じゃあ、二人はーー」

「ジーク!!」

「えっ」


 ドゴォン!!


 アンナの声を遮りジークの名前を呼んだ瞬間、走行していた車体に何が打つかる音が響く。そして僅かな浮遊感がした後、強い衝撃が俺達を襲った。


「いったぁ。何が起こっーーむぐぅ」

「黙って。ジーク」


 衝撃が収まると騒ぎ出す前にアンナの口を手で塞ぎ、ジークに安否の確認をとる。


「二人は気絶してるがこっちも大丈夫だ」

「良かった」


 咄嗟に正面に座っていたアンナだけを衝撃から守ったけどレイとダインは間に合わなかった。でもジークが代わりに守ってくれたみたいだ。


 それに......うん。運転手も大丈夫だ。


 魔力反応が変化しないことから魔導車の安全装置に救われたのだと思う。


「今のは魔法か?」

「うん、間違いない」


 俺が範囲サークルの魔法で捉えたのは魔力の塊だった。あれは放出魔法だ。車体が横に倒れる程の衝撃でかつ二次被害がないことから放たれたのは風、もしくは土系統のもの。


「捕捉出来るか?」

「今やってる」


 周囲に張っていた範囲の魔法を攻撃があった方角に急いで広げていく。俺の魔力も範囲サークルの広さに比例してごりごり減っていくが、おかげ捉える事が出来た。


「五時の方向に反応が三つ......ちっ、気付かれた」

「逃げたか?」

「いや、二人だけゆっくりとこっちに来てる。一人は動きが無い」

「急いでここから出るぞ!」

「了解」


 ジークが言い終わるのと同時に悪いと思いながらも取り出した刀で天井を大きく四角形に斬り出口をつくる。そして未だに理解が追いついていないアンナを抱いて車内から外に出た。


「おいおい。どんな手練れが乗ってんのかと思ったら、ただのガキじゃねぇかよ」

「白髪の女と銀髪の男か。どちらも若いな」


 外に出ると目視出来る距離にまで来ていた襲撃者が俺達の姿を見て愚痴る。襲撃者はどちらも片手にナイフを持ち、身体強化の魔法を使っているのが確認できる。


 言葉では侮っていても油断は全くしていないようだ。


「目的は何?」


 都市外での強盗や殺人はどこの国でもその凶悪性から須く極刑とされている。なので襲ったのには必ず理由が存在しているはずだ。


「はん! 答える奴があるかよ」

「問答は無用だ。お前達には死んで貰う」


 案の定の返答に俺がこれからとる行動方針は決まった。


「ジーク。皆んなを守って」

「分かった」

「はっ、一人で俺達とやるつもりかよ。随分と余裕だなっ!」

「死ね」


 ジーク達が後ろに距離をとろうと動きだすと同時に、敵の一人が強化された身体で接近し俺との間合いを潰そうと前に出る。そして残りのもう一人は前に出た一人に重なるように手に持っていたナイフを投擲した。


 魔力の僅かな動き、足から腕に移動する魔力の一挙手一投足を俺は見逃さない。


 身体強化を限界まで引き上げ間合いを潰しに来た男のナイフが届く前に、アイテムボックスから取り出した槍の石突きを横から顎に向かって砕く勢いで振り抜く。


「がぁっ!」


 反応しきれなかった男はそのまま顎を強打され、身体を覆っていた魔力が消えた。姿勢が崩れ手応えから気絶したと思ったが後ろのナイフが背中に刺さったことで持ち直してしまった。


 けれど、これで終わりだ。


 振り抜いた姿勢から今度は下から掬い上げるように顎を打つ。


「がっ!」


 ゴツと鈍い音と短い唸り声が聞こえた後、後ろに仰反るように倒れた男はそのまま沈黙した。


「無駄」


 飛び出さなかった男が続けてナイフを投擲するが、その悉くを槍で打ち払う。投擲の精度こそあるがその速度では俺には届かない。


 それに......


「ぐぅぅ!! 脚がっ!」


 ナイフを打ち払い次が投擲されるまでの短い時間で俺はお前を射抜ける。


「これでお終い」


 槍から瞬時に弓矢に入れ換え一射目が膝に命中した後、痛みで動きが鈍った男の頭部をすかさず二射目の鏃を変えた非殺傷性の矢で狙撃する。


「うっ!」


 二射目で男の身体を覆っていた魔力の反応が消えた。これで後は未だに動きがない一人を無力化すれば一先ずの問題は無くなる。


「後一人はどうしよう......」

「終わったか?」

「まだ終わっーーッ!」


 二人を無力化したことで近寄ってきたジークに返答をしようとしたが、それは俺の頭に向かって高速で飛来する小さな物体によって中断された。


 認識した時には既に目前で避ける事が不可能だとかを考えるより先に、半ば反射で取り出した剣を軌道上に置いていた。


 ぐしゃり。


「どうした? また敵がくるのか?」

「......なんでもない。ジーク、拘束手伝って」

「了解だ。残り一人は逃げたのか?」

「そうみたい」

「そうか......身体に違和感はないか?」

「ない」

「良かった。後は俺に任せて休んでろ」

「ううん。リンダスに着いてからで大丈夫」

「無理はするなよ」

「うん」


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