盲目少女の二重奏〜焦がれる白人形は自立したい〜

touhu

第1話 ここは何処? 私は誰?


何時もの様に働き、何時もの様に帰宅している途中、何時もと違う事が起こった。何も変わらないと思っていた日常は唐突に終わりを迎えた。最後に見たのは真っ白な光だった。






はっ!びっくりした。トラックに轢かれる夢見るとか最悪だ。はぁ、まだ真っ暗だしもう一回寝よ……ちょっと待て、真っ暗なのは分かるがこんな光が一切無い暗さは初めてだ。もしかしてまだ夢の中のか? でも身体の感覚はあるぞ。冷たく硬い床の感触が尻から伝わってくる。


手を動かそうとしたら手首に何か重りが付いているのか、腕を全く動かせない。そのかわりジャラ、ジャラと鎖が擦れる音が聞こえる。


ふん! ……ダメだ、動かせる気がしない。足も同様で何か付いているのか全く動かせる気がしない。まさかこれって拘束されてる? 俺にそんな趣味はないぞ。


手足は動かせなくても頭は動かせるみたいだ。しかし、何処を見ても真っ暗で意味がない。目開けてるよなぁ、何で何も見えないんだ? 意味が分からん。


ここは何処なんだ? 周りに誰かいないのか?


「おーぃ」


声を出すと鈴を転がすような可愛い声が聞こえた。びっくりして、うぉ! っと声を出すとさっきと変わらない声が聞こえた。まさか、これ俺の声か?


「あーあー、本日は晴天なり」


間違えない俺の声だ。まるで子供の女の子の様な声で……女の子? 嫌な予感がする。慌てて身体の確認をしようとしたけれど手足が動かないんだった。くそっ、面倒だな。


手で確認するのを諦めて感覚だけを頼りに調べてみるが……やはり最悪の予想が当たったみたいだ。股間に息子の感覚が無い。どういうことだ!


それにさっきから冷たい床に座っているのと、変な汗をかいたせいで尿意を催した。やばい、夢の中だとは言えこの年でお漏らしは笑えない。


「誰か居ませんかー?」


しかし、返ってくるのは沈黙のみ。ふぅ、オーケーオーケー。こういう時は変に力まず自然体で、意識しなければだいじょ……

チロチロ

ぶじゃ無かった。勝手が違うせいで普通に漏らしたわ! ちくしょう、これで目が覚めて布団が濡れてたら一ヶ月はへこむぞ。


はぁ、身体に力が入らないわ、真っ暗で何が何だか分からんし、股間のマイサンは行方不明。それに動こうとする度にジャラジャラと鎖の音が鳴るだけでトイレにも行けない。これ以上最悪な事あるのか? 夢なら早く覚めてくれ。



いつのまにか寝ていたのかバシィと顔面を強く叩かれた衝撃と痛みで目が覚めた。いってぇなくそと悪態を吐くが目を開くも以前真っ暗だった。


そして意識が覚醒してもお尻から伝わる冷たさに頬の痛み、独特の異臭に鎖の擦れる音は変わらない。ここまで来ればこれが夢では無いと悟った。


「■■■■■■」


正直人なのかも怪しい何かは俺に話しかけているようだが理解出来ない。と言うか現状の理解が追いついていない。


「■■■■■■■■」


けれどそんな俺にお構い無しに何かは話し続ける。まじで何語喋ってるんだ? 一言も意味が分からんが俺を馬鹿にしているようなニュアンスだけは伝わってくる。なめやがって。


「うるさい」

「■■■? ■■■■■」

「あ?何言ってるか分か『バシィ』ぶっ!」


クソ痛ぇ、本気で叩くなよ。耳がキーンとする。手?が大きいせいか首の衝撃が半端無い。それにさっきからピンポイントで右頬だけを叩くなよ、お前には見えてるのか?


「■■■■■」


体が動かせれば殴り返してやるがいかんせん手足が動かない。くそ、さっきから笑いやがって。


「■■■、■■■■」


何者かも分からない存在に憤りを覚えていると、チクっと右腕に鋭い痛み感じ身体の中に何が入ってくる。動けない事をいい事に何しやがる、この鬼畜野郎。


「あ、れ?」


なんだか身体の様子がおかしい。さっきまで感じていた頬の痛みも、お尻から伝わってくる冷たさも何も感じ無くなっていく。


感覚が消えたと思ったら今度は音が消えた。そして嗅覚まで消え失せていく。


怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。


五感の全てが無くなるとはこれ程までに恐ろしいのか。下卑た笑い声も自分の声も何もかもが分からない。自分1人が世界に取り残された様な孤独を感じる。


これは夢なんかじゃ味わえない恐怖がある。俺は一体誰だ? どうしてこんな所にいる? 記憶までもが曖昧になっていく。


俺は死ぬのか? こんな事ならあの時の方がマシだ。……あの時って何だっけ? 分からない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る