第10話 到着

10話


「予定通りに到着したな」

「そうだね」


 俺達は持参していた通行証を受付で見せて、軽いやり取りを済ませて無事に法の国に足を踏み入れていた。


「改めて確認すると大きな船だね」

「だな。流石は和の国のクルーズ船って感じだよな」

「この船にも名前があったんだ」

「ん? あぁ、そうだな」


 船での旅はした事が無かったけれど、船酔いにさえ慣れてしまえばゆっくり出来て快適なものだった。一週間があっという間に感じてしまう。


「感覚もバッチリ」

「よし、それなら移動するか」


 取り出した杖の先でコンコンと地面を叩き反響(エコー)の魔法で地形の把握を済ませた俺はジークと手を繋いで行動を開始する。


 これからこの港町ハーウェンから留学先であるイージスアート学院がある首都ヴァールテクスまで移動しなくてはいけない。


 恐らくこの国も魔導列車はあると思うのでそれを使うのが最短なはずだが、その前にまずは共通硬貨を換金してこの国の物価や討魔ギルドで治安を調べたりしないといけない。


 もうここは俺達の知っている国では無いのだから。


「凄い。外灯が全部魔道具で出来てる」

「まじか。ここで既に日月と同じ水準かよ。噂通りの魔道具国家だな」


 法の国は和の国よりも魔道具が発達、進展している国と聞く。実際に首都でも無い都市でも日月のように当たり前に魔道具が公共物になっているのを確認すると改めて感心する。


「首都は一体どんな場所なんだろうな」

「想像出来ない」

「俺もだ。お、ちょっと寄り道してもいいか?」

「何か見つけたの?」

「あぁ、さっそく特産品を見つけた」


 そしてジークに手を引かれて向かった先は装身具を売っている一つの露店だった。


「いらっしゃい。気になる商品があれば気軽に手に取って見てくれ」

「それじゃ遠慮なくっと。これが何か分かるかエミル?」

「ん、これは......魔石?」

「正確には魔工石まこうせきと呼ぶものらしいぞ」


 それは辛うじて知ってる物だった。確か魔石を貴石、半貴石として加工した物だったっけ?


 ジークに手渡された髪留めの装身具を確認すると魔道具でも無いのに僅かに魔力を帯びた小さな魔石が付いていた。


 ジークはこれが特産の魔工石だと言っているけれど、魔石との区別が俺には出来なかった。それに多分これは色合いとかの目視で見分ける物だと思う。


「ふーん。買うの?」

「記念だからな。エミルは?」

「私は興味無し。それにーーやっぱりいいや」


 俺は実用性のない装身具には興味はない。それに、と喉まで出かけた言葉をどうにかのみ込む。首都の方がもっと良い品があるかもと、美醜まで分からない俺がそう言うのは店主に失礼だと思ったから。


「毎度あり」

「待たせたな。行こう」

「うん。場所は分かった?」

「バッチリだ」


 装身具を吟味する振りをしながら店主から自然と必要な情報を得ていたジークの話術は流石だと思った。世間話を交えながらとか面倒で俺はすぐに単刀直入に聞いてしまう。


「よし。これで一通りは済ませたな」

「うん。だけど、肝心な魔導列車が運行停止なのはついてない」

「だな。どうしたものか」


 あれから店主から聞いた情報で恙無く換気と討魔ギルドでの諸々を済ませた俺達だったが、本来なら運行しているはずの魔導列車に問題があった。駅員さんが言うには、路線付近に魔物が発見されたことによる運行の停止らしい。なんとも間が悪い。ちなみに再開の目処は未定とのこと。


「少し遠回りになるが、魔導列車が運行してる近くの都市に一度移動してそこから首都を目指すか、ここで再開するまで待機するか。エミルはどっちが良い?」

「うーん」


 首都には余裕を持って到着する予定だったから時間には急かされていない。それを考慮すると正直前者も後者も大差はないと思う。それにどちらを選んでも不確実性はあるけれど、敢えて選ぶとしたら後者の方かな。


「私はーーッ!」

「君たちも魔導列車の事でお悩みですか?」


 俺が答えようとしていたら突然見知らぬの男に声をかけられた。その男は一人で背丈と声だけの判断だが多分成人の男性だ。一応何が起こっても対応出来るように身体強化の魔法を強めておく。


「そうだが......貴方は一体?」


 男を警戒して何と答えたらいいか分からず逡巡しているとジークがすぐに対応してくれた。なので俺は大人しく成り行きを見守ることにした。


「それはつまり魔導車を割前勘定にして安く済まそうって考えか」

「ぐっ、そうです」


 男の話を簡潔にまとめると私用で首都に早く帰りたいがここから移動するとお金が心許ないので、自分と同じ境遇の人を探していたらしい。


「まぁ、俺達もどうするか悩んでいたから、渡りに船ではあるな。エミルもそれでいいか?」


 ジークが言うなら断る理由はない。


「私はどっちでも......それより魔導車はあるの?」


 あれは乗合馬車より数が少ないはず。こうしている間にこの都市にある魔導車が全部利用されてしまっていてもおかしくない。


「それなら心配いらないよ。僕の仲間がリンダス行きのを抑えているからね。それよりも承諾してくれたって受け取っても良いんだよね?」

「そうだな」

「よっし! 僕の名前はレイ、短い時間だけどよろしくね」

「俺はジーク、それでこっちはエミルだ」

「よろしく」


 こうして法の国で出会ったレイと行動を共にすることとなった。

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