第14話 竜宮城ー2

「う……」

 眩しさに包まれ、目を開けるとそこにはラベンダー色の花が一面に広がっていた。冬だって言うのに春のような陽気だった。

「あやめちゃん、無事?」

「うん、ここには何回も来てるから」


 果てしなく広がる紫色の世界、その真ん中に人が立っていた。

 その柔らかなほほえみには見覚えがあった……。否、忘れるはずがなかった。


「母……さん……?」


「弥生、大きくなったね」


 おかーさん! と抱き着くあやめちゃんの頭を撫でる母さん。……俺の母さんが、あやめちゃんのお母さん?

「あやめ、お兄ちゃんを連れてきてくれてありがとうね。弥生には、たくさんお話したいことあったから……」


「母さん、ここはいったい……」

「もう、母さんなんて呼ぶようになっちゃって!」

 母さんは俺の肩をバシバシと叩く。

「私はここを竜宮城と呼んでいるわ。私が死んでから毎日海に来てたあやめが心配で見に来てたら、いつの間にかできちゃった♪」

「できちゃったのか」

 しばらく無言の時間が続く。久しぶりに会って母さんも俺も緊張でガチガチにぎこちなくなっていた。そんな様子を見ていたあやめちゃんは、二人の手を取った。

「あそぼ!」

 俺と母さんは互いに目を見合わせ、ふふっと笑った。あやめちゃんもニコニコと笑っていた。


 鮮明に覚えている。あの瞬間、俺たちは家族だった。あやめちゃんが作った花の冠を母さんにプレゼントして母さんが喜んだこと。俺とあやめちゃんが草相撲して10連敗したこと。あやめちゃんを肩車する俺を心配そうに見つめながら、でも幸せそうな顔をする母さん。あやめちゃんが俺のためにひそかに作っていた歌を二人が歌い俺が泣きそうになったこと。

 幸せな時間だった。

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