20日 ヒンヤリ


日曜日のゴールデンタイムが終わる。

昨日の土曜授業でやる気が無かったことを言い訳にしてやっていない宿題が、まだ机の上にある。

まぁ明日の朝早くに起きれば良い。

どうせ明日明後日で学校はお終いだし。


風呂の中でふとなぜかドールの顔が浮かんだ。

俺はバシャバシャと自分でも訳がわからないまま水を顔に掛ける。

ドールと仲良くなりすぎるなって…

鼻までお湯にどっぷり浸かると、溢れた湯から水煙が上がって鏡を曇らせる。

あと十だけ数えたら上がろう…




湯冷めしないうちに布団に入ったためか、すぐに寝つくことができた。

その結果がこれか。

寒すぎて夢の中で湯冷めしそうだ。

 

「ズズッ…またここかよ…」


リスポーン地点をどうにかできないものか。

毎度毎度ここだ。

前に寝たところでダメですか?某ゲームみたいなセーブ方法は嫌いですか???


「…食い逃げのこと、忘れてないかな…」


少し出た所にあるちょっとした店街に出たいが、無闇に出ればジャスティス☆キックを喰らいかねない。

しかも服装が同じだ。


「…変装するか…」


なんでこんな突拍子も無いことを良く思いついたと今では思う。

近くの建物はどうやらパークの職員の施設だろうということは知っていた。


「おじゃましまーす…」


鍵はドアにもロッカーかけられていないラッキー。

奥から三つ目のロッカーを開けると、パークのロゴが入った探検服のような物が入っていた。


「じゃあちょっとお借りして」


長袖長ズボンのウインドブレーカーだった。

都合が良すぎるくらいにピッタリで(じゃなくては物語が続かないだろう?)帽子もあったので怪しまれずに済む…だろう。

少なくとも一般客には。


あのあとドールは元気に生活しているのだろうかと心配になったので、今日は見に行く事にした。


「この制服有能だな…全く寒くない…」


ブーツもお借りした。

別に借りただけだし盗んでないし()


地面の感触が変わる。

きっと下の道がレンガになってきたのだろう。

ライトアップが見えてくる。


「カフェは…ここか」


今日は店の前にフレンズは立っていなかった。

怪しまれないように細い路地に入って、窓に息を吹きかけ氷を溶かす。


「…今日はいないのかな…」


なんだか自分のセリフにストーカーまがいな事をしているような気になってきた。

どうせドールもフレンズだし、体は強いはずだからきっと元気にやっているだろう…


「Hey!何してるの?」


思わず肩がビクつく。

振り返って仰ぎ見るとあの時の店前の翼フレンズが飛んでいた。

意識して丸見えのスカートの中から視線を逸らす。


「ええっと…ガスのパイプの点検に…」


「I see…ストーブが付かなければ大変だものね!」


翼のフレンズが高速で何かを顔の真横に投げた。

ビュンと空を切って壁に突き刺さったソレは、キレイな白黒のワシ羽根だった。

コンクリに突き刺さる物を人に投げてきてるんですけど、明らかにこれ殺傷用じゃん。


「You're stupid…ワシの目は良いのよ、変装なんて一発で分かるわ!食い逃げ!」


「く、食い逃げ…な、なんの事だか…アハハ…」


「ハハーン?とぼけるつもりなのね…?」


翼のフレンズの目が輝く。


「ジャスティス☆キーック!!」


「あばーっ!お助けぇ!」


フレンズがこちらに空中から蹴りを繰り出して来た。

それはそれはとんでもない威力…

右腕を掠ってダウンの中の羽毛が飛び散る。


「What?!何よこの羽根!」


飛び散った羽毛がフレンズの顔にくっついている。

どうやら前が見えなくなっているらしい。

フレンズは路地を抜けるとそのまま奥の雪の中にズボッと刺さった。


「Why?!何も見えモゴモゴ…」


頭の翼だけが見えている。

ジタバタしていたが、大人しく観察していると翼がへなっとして来た。


「ちょ、ちょっと?!」


翼の部分を持って思い切り引っ張り出す。


「痛い!ちょっ止め」


ようやく顔まで出できたと思ったら上から雪が落ちてきてまた埋まる。

急いで雪を掻き出す。


「ブハッ!Oh my…助かった…」


翼のフレンズがゼーハーゼーハー息を整える。


「ハクトウワシーっ!どこ行ったのーっ!」


聞き覚えのある声がした。

路地から出てきたのはやはりあのドールだった。


ドールはこちらを見つけると会釈した。


「ダ…ダイチ…何してるの…?ハクトウワシも…知り合いだったの?」


ハクトウワシはまだ雪の中から頭だけを出し、唇を紫にしながら息をしていた。


「…死ぬかと思ったわ…ドール…help me…」


ドールが丸い手袋でハクトウワシの上の雪をかき分ける。

どうやら除雪した後だったようでガチガチに積み重ねられた雪だった。


ドールとそれぞれの腕を持って引っ張り出す。


「「せーの!」」


ズボッとハクトウワシは抜けて出た。


「fucking cold…」


ドールが雪を払い落とし、ギュッと抱きしめて暖めようとする。ユリユリ。


「あたたかいわ…」


まるで温められる小鳥かよ…

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雪降る夜の夢 アトリビュート @atoributo

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