16日 本当に夢か?


「ん、あ…」


目覚ましが鳴る数分前に起きた。

ということは朝6時半前だ。

体内時計のせいだろうか、こういう事ってよくあるよね…


「それにしてもリアルな夢だったな…」


あの上品なケーキの甘さ…最高だったのだが…

ベッドにクリームが少し付いていたような気がしたが、それは瞬きの間に消えた。



『昨日、ジャパリパークのカフェで食い逃げが発生したようです』


「ジャパリパークに行くお金があるくせに食い逃げなんてケチくさいやつもいたものね」


テレビを見ると、あのカフェが映っていた。

…あのカフェが映っていたぁ?!


『そうなんです。私がジャスティス☆追跡したにも関わらず逃げられてしまいました…』

『犯人は未だ逃走中ですが、身長は170センチ程度の15〜18歳の男性、黒いダウンコートを着ていたとの事です…』


正直、ギョッとしたね。

だって夢の中の俺の格好まんまなんだもん。


「これって…どゆこと…???」




友達にも相談できない、食い逃げしたなんて言えるもんか。

アレは本当に夢だったのか?

やけにリアルだったよな…

それにあのケモ耳もジャパリパークだったら説明がつく…いやいやそんなことあるわけ…


「ごふっ」


「わりわり!当てちまった!」


顔面にサッカーボールが直撃した。




「ただいまー」


「「おかえりなさい」」


「…何してんの?」


「みれば分かるだろう。フォークダンスだよ」


「懐かしいわ…アナタと高校生のとき一緒に踊ったわね…」


馬鹿馬鹿しい…

親のイチャコラなんて付き合ってられるか。


リビングから陽気な曲が流れてくる中、そちらの方をなるべく見ないようにしながらメシを駆け込む。


仮にだ。

仮にアレが夢じゃなかったとして?

どうやってジャパリパークまで行ったんだ。

大体、600キロくらい離れてるじゃないか。

行けるはずがないし、それにあれは昼間だった。

しかも体の疲労は回復してる。

夢だよ夢夢…








なんでだ。


寝たらこうなるのか?

また昨日みたいなリアルな夢だ。

ホーラ格好も同じ。

少し歩くと…ほらほらほら!店!!


「この格好じゃまずいか…?」


ダウンは脱いで、近くのショップで暖をとる。

カチューシャの猫耳とかが並べてある。


「やっぱりジャパリパークなのか…?」


だがここに長く留まる訳にもいかない。

誰か店員が気付くかもしれないからだ。

パンフレットを頂戴して地図を確認すると、ここは雪山ちほーというところの麓らへんらしい。


「よし…」


外はやはり極寒、でも前回より雪も風も激しくないので楽だ。

時間帯は夕方くらいだろうか…

遠くを見やると、一定のところで雲がぴーっと切れており、その向こうは赤い空が広がっている。

面白い光景だ。


雪は積もっているので、ギュッギュッという音を鳴らしながら進んでいく。


まちの外れに来たあたりだった。


「あの!」


ギクリとして振り返る。

落ち着け自分、別に悪気があった訳じゃないしバレずに逃げられるかもしれない。


「あなた…昨日の食い逃げ犯ですよね…」


バレてたー。


「ちっ、違いますよ!俺は食い逃げなんて…」


よく見るとあのケーキを運んで来てくれた子だ。

フレンズということになるだろう。


「なんで食い逃げなんてしたんですか!」


ズイッと激しい剣幕で迫ってくる。


「い、いやだって…凄く寒かったし…お腹も空いてたから…!」


「何か言うことがあるんじゃないですか?」


「あ、あの…ごめんなさい」


頭を下げて手を合わせる。

こんなところで警察か…?


「ハァ…言ってくれればよかったのに」


「へ?」


「ん」と言いながら少し怒ったような顔でカップを押し付けてきた。

胸のあたりが熱い。


「アナタの好きなミルクと砂糖ドバドバだから」


そういうと、ケモ耳ガールはくるりと向こうを向いて歩いていく。


「ま、待って!名前は?」


「ん…ドール…」


「ありがとう、ドール」


「どういたしまして!」


ニコッと最後に微笑んでくれた。

あードールちゃんいい子や…


ちなみにしっかり砂糖ドバドバミルクドバドバだった。




テレビで放送されたくらいだから結構な騒ぎだったに違いないのに、なんで俺なんかの所に飲み物を持ってきてくれたんだろうか…

そんな事を考えながら雪道を歩く。


「止まって」


冷淡な声だった。

今度こそ捕まるのか…?

まさかあのドールちゃんが密告…???


「動かないで」


何?

撃たれるの?

俺撃たれるの?


ギュッギュッと足音が聞こえる。

軽い音だ。

後頭部を小さな冷たい手が触れる。


「アナタね」


「な、何がですか?」


食い逃げの件じゃありませんように食い逃げの件じゃありませんように食い逃げの件じゃありませんように食い逃げの件じゃありませんように食い逃げの件じゃありませんように食い逃げの件じゃありませんように食い逃げの件じゃありませんように…


耳元でその声が囁く。


「起きなさい」





ハッと目が覚めた。

毛布は散らかっており、お腹が出ている。

ただ、アレが夢じゃないことだけは分かった。

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