19日深深夜 紐


「なんなんだこれ…」


くっきりと左手首についた紐の跡。

白い斑のように編み込みが焼き付けられている。

全く気がつかなかった。


「…で…」


沈黙ー…


「…にいちゃん…取り敢えず座って…ぼくとげぇむでもしようや…」


「キタキツネ…そんな言葉どこで覚えたのよ…」


キタキツネがコントローラーの片方を手渡してきた。


「じ、じゃあお言葉に甘えて…」





「ホラ…どう?ボク上手でしょ?」


「くっ…体力を…搾り取られる…!」


「ホラ全部出しちゃいなよ…『残機』ぜーんぶ♡」


「こ、こんなキツネなんかに屈しない!!」


「何してるのよ…」


ギンギツネが死んだような目でこちらを見ている。


「ギンギツネもヤるー?」


「やらないわよ!」


「ホラ…3Pのほうが盛り上がるから…」


「結構よ!変な声出しながらゲームしないで!」


大乱戦スカッシュシスターズ…

巡検でみんなであつまったスカシス大会では負け無しだったが…

強い!!このキツネ、出来る!!(某小説感)


「ダイチもなかなかやるね…ボクとこの秒数戦っていられたのはダイチだけだよ…おしまいだぁ!」


「痛い!痛い!何そのコンボ!(痛覚共有)」


『GAME SET』


得意げにキタキツネがこちらをみている。

プロゲーマー並みに強い…


「どう?望むならコンティニューできるよ」


「いや…いいわ…」


「えぇー!ダイチすぐあきらめるー!」


「キタキツネもでしょうよ…」


久しぶりにエキサイトした…


「…それ…アナタの手首」


ギンギツネが俺の左手首を指差す。


「あ、これ?なんだろうな…俺も分からなくて」


ギンギツネはこちらにヅカヅカと近づくと俺の左手をとって嗅いだ。


「ふぁ?!?!」


「ダイチ、アナタ白いキツネに会ったでしょ」


「え…オイナリサマ?」


突然女子に匂い嗅がれるとか流石にビビる。


「…そう…分かったわ…よかったらウチの温泉に入っていかない?」


「え?いいんですか!?」


「ええ…タオルを持ってくるわ…」


ギンギツネはこちらにあまり顔を見せないまま奥に入っていった。


「なぁ…俺何か気に触ること…ハッ…?」


キタキツネがとても悲しそうな顔をしてこちらを見つめていた。

輝いていたあの瞳から哀れみが滲んでいる。


「…大丈夫だよ…ほら、ギンギツネが来る前にもう一戦だけ!ね?」


「わ、分かったよ…よし!次は負けない!」




「負けた…」


タオルを持たされてとぼとぼと廊下を歩く。

窓から見えるのは雪化粧をした森。

依然として吹雪いているが。


「ここが男湯…と」


フレンズにもわかるようにだろう、ピンクののれんだけに猫耳の絵がついている。

男のフレンズはいないのだろうか…

やっぱりこの島を作った少女は男友達とかいらなかったんだろうか?

俺は欲しいから…まぁ俺が祈って島が出来てても女子しかいないかもな…ハーレム…嗚呼ハーレム。


シャツのボタンを外す。

体重計や足つぼマットが置いてある。

もうこの旅館は築30年くらいいっているのではないだろうか。


ガラガラとドアを開けると水蒸気が舞い込んできた。

石畳のひんやりした上を歩いてシャワーを浴び、奥にある大きな円い浴槽に浸かる。


「はぁ…極楽極楽…」


本当に極楽とか言うやつ見たことなかった…

まさか俺がなるとはね。


「ダイチくん」


向かい側に人がいて、水蒸気で顔が隠されていたがその正体が声で分かった。


「タクミさん」


タクミさんは右肩のところだけ皮膚が剥げたように白くなっていた。


「ん?ああ、これね」


「え!すいません別に見てたわけじゃ」


「いやいいんだよ…これはさ、大事なものを守れた名誉の傷だから」


タクミさんは昔のことを思い出すように上を向いて、右肩からお湯をかけた。


「ダイチ君はさ、これだけは絶対に守りたいって大事なものはある?」


「俺ですか…今んとこスマホですね…」


「アハハ、君らしいね」


ガラガラとドアがまた開いて、他の客が入ってきた。

タクミさんがあがる。


「あったまってきたし、露天風呂に行かない?」




外は吹雪いていたがお湯は気持ちが良かった。

むしろ吹雪が綺麗だった。


「すげぇ…」


「…パークって不思議だよね…ここからしばらく歩けば砂漠なんだよ」


「まじすか?」


「ああ、沢山のエリアは気候ごとに区分されててそれぞれに個性的なフレンズ達が暮らしてる」


雪がサラサラになってきた。

さらに冷え込んでいくらしい。

お湯に結晶が飛び込んでは消えてゆく。


「守りたいんだ…このパークは」


「…そうですか…」


「でもね」


「?」


タクミさんが悪戯っぽい顔をして言う。


「本当に守りたいものがある時はさ、世界にどれだけ蔑まれても、ダメだって分かっててもやらなきゃいけないんだよね」


「…」


「だからさ、ダイチ君」


「はい?」


「君が決めていいんだよ…でも」


「でも…?」


「…なんでもないや」


タクミさんが風呂からあがる。


「あ、俺も」


風呂から出て石が敷かれている。

その石に足を滑らせた。


「うわっ!」





バタン。

ベッドの上だった。

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