18日 感謝


俺の足腰に限界が近づいている。

あと何より寒い。

寒い寒い寒い、寒すぎてサムスミスになりそうなくらい寒いというギャグくらい寒い。

歯がガチガチ鳴る。


「あと…もうちょっと…っ!」


ダウンはドールに無理矢理着せるようにした。

どうやら意識を失っているらしい。

雪が更に強くなってきて、視界が悪い。

でもここで止まったらドールがどうなるのか分からない…もう食い逃げ云々言ってる場合じゃないぞ。


あとこういうこと言っていいのかわからないけどドールちゃん割と軽い。

あとおんぶしてるので背中が…凄い八ツ橋。

あっ凄く凄く凄いです(語彙力)

というか女子とここまで密着してるのは初めてでは…?とか考えらんねぇ寒い。


やっと建物が近づいてきた。


「もう限界っ…!」


バンバンと強くノックして倒れ込む。

寒い、辛い、意識が飛んで目覚めてしまいそうだ…


「はーい…だれー?」


俺は顔面と膝を雪に埋め、その上にドールがおぶられている。


「ふぇ?どうしたの?!タクミー!手伝ってぇ!」


寒い…眠くなってきた…












「あぁ。よかった…」


知らない男の人の顔が俺の上に見える。

あったかくて布団の中だ。

あれ?起きた?

だが周りを見渡すとログハウスだった。

まだパークか…

ドールはどうなった?!


「あ、あの!あの子はどこに!」


「あぁ、さっき目を覚ましてストーブの近くでホットココアを飲んでいる筈だよ。君にも持ってくるから待ってて」


少し待っているとドタドタと足音が聞こえ、ドアを勢いよく開いてドールが入ってきた。


「え…ダイチだったの?」


「…よかった、無事そう…」


続いてあの男の人も入ってくる。


「君、ダイチって言うの?もしかして、食い逃げした少年だよね?」


やっべー…流石に逃げられんか…

これはオワタな…


「ご、ごめんなさい…」


「ダ、ダイチには理由があって…えっとそのなんていうかあの…」


ドールがフォローしようとするが全然できてない。


「…まぁ君の行動に免じて見逃しておくか…」


頭を掻きながら男の人が言う。


「へ…?あ、ありがとうございます!」


「いやいや礼を言わなきゃいけないのはこっちだ、大切なフレンズの命を救ってくれてありがとう」


手をグッと握られる。


「私も…助けてくれてありがとう…!」


「…この前のコーヒーのお礼だよ」


感謝されて悪い気持ちはしないが…


「なんでドールは倒れてたの?」


「あの林の中で確かセルリアンに襲われて…倒したところで力尽きちゃってね」


「セルリアンって?」


男の人が「フレンズの力を吸い取る化け物だよ」と付け加えた。


「そしたらなんだか眠くなっちゃったみたいで…あんまり覚えてないです…でも、ダイチが助けてくれたからよかった!本当にありがとう!」


そこまで感謝されると照れくさくなってくる。

ドアを開けてフレンズが入ってきた。

だが足は完全に太ももまで露出していて、正直初見でびっくりした。

手には大きな肉まんのようなものを抱えている。


「ジャパリマンもってきたよー」


「ありがとう、フルル」


どうやらジャパリマンという食べ物らしい。

ドールはそれを受け取るとムシャムシャ食べはじめた。


「じゃあ…俺も一口…」


水色のをもらって少しかじってみる。

中々に美味しい。


「ドールちゃんはいっぱい食べなきゃね、セルリアンと戦った後なんだろう?」


「はひ!」


その後も凄い勢いでジャパリマンを平らげた。

パサパサになりそうなのに、パンか何かで飯トレでもさせられているのだろうか。


そういえば夢の中で寝たんだけどこれってどう?

かなりヘンテコでは?


「飼育員さん…ですよね?ここら辺の人なんですか?」


「いや…たまたま僕の担当のフルルと一緒に泊まりにきてただけだよ。ここら辺には温泉もあるし、スキーもできるしね」


「いいなぁ…リア充じゃないですか。俺なんて彼女もいた事ないし…」


アハハと飼育員さんが笑う。


「気にしないでって、僕も君くらいの頃は彼女もいなかったし高校もつまんなかったし」


「そんなもんですかねぇ」


「そんなもんだよ」


ココアをすすって一拍置く。


「もしかしてフルルってあのフレンズ、彼女さんだったりするんですか…?」


飼育員さんが激しくジャパリマンでむせ始めた。


「ゲホゲホ…うーんそんなもののようでそうじゃないっていうかなんていうか…」


急にしどろもどろだ。

ケッ!コイツもかよ!


「まぁでも法律に触れない範囲だし…別に恋人とは言い切れないからね…」


「はぁ…彼女持ちなんて羨ましい限りです」


「そうかな?」


「そうですよ!高校ではステータスみたいなもんだし…みんな付き合ってイチャイチャして…」


確かに、と言いながら飼育員さんが笑う。


「でもさ、好きな人なんて作ろうと思って作るものじゃないんだよ」


「そうなんですかね…」


「でも本当に大切な人だけは死んでも離しちゃダメなんだよね」


ペカっと飼育員が言う。


「その本当に大切な人って意外にもそこらへんに転がってたりするからさ?」


「…俺にも見つかりますかね…その本当に大切な人って?」


「うん、きっと見つかるよ」


ストーブの近くでドールとフレンズが戯れている。

暖色の灯りの中で影が踊っている。


「…そういえばさ」


「は、はい?」


「君、今眠ってるでしょ」




バンと起きた。

高所から落ちたような感覚で。

目覚まし時計はいつもより早くを指していた。

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