19日 始まり


「ねぇ、25日にうちでクリパしない?」


「いいね!行く行く!」


出過ぎたシャーペンの芯を押し戻す。

俺の席はストーブに近いので沢山の人が集まってくる。


「ダイチー!数学のノート出すぞー!」


「あっ!ちょいまち!」


ぼっとしていた。

今日は数学のノートの提出日だ。

年の終わりが近づいているのを感じる。

しんしんと窓枠に降り積もる雪はすぐに水滴に代わり、やがて流れていく。

美しいのは一瞬だ。

あとは有象無象になって消えてくだけ。

そんな思春期特有の厨二チックな心情の中で、なぜにドールの顔だけがチラつくのだろう…


サッカーではミスばかりだった。

大事なクロスを空振り、クリアに失敗し、挙げ句の果てにトップに上げられたのにシュートも打てなかった。


正直なところ、あの夢の異変にかなり心を揺さぶられているところはある。

いま、ドール達は大丈夫だろうか。

よくよく考えれば、いま僕はジャパリパークにもいることになる。

まてよ考えると気持ち悪くなってくる。


「はぁ…」


「学校で何かあったの?」


「いや…なんでもないよ」


母さんが心配そうに尋ねる。


「でも最近ダイチ変よ?たまーに考え事してたりとかするし…もしかして好きな子がいるとか?」


「いるわけないじゃん!」


思わずガッと返してしまった。

かえって疑われたのかもしれない。

母さんが少しニヤッとする。


「私もダイチぐらいの時はそんなだったなー」


「はいはい、終わりは見えたって。その好きだった相手が父さんだったんだろ?」


「当たり!よくわかるわね」


「40回は聞いてるよ…」


両親は典型的リア充だった。

俺の境遇なんて想像もできないだろう。


バッと布団に潜った。

部屋のストーブをあらかじめ入れておくのを忘れていたので寒い。

足の指を手で温めながら回想する。


あの男の人の発言…「君、今眠ってるでしょ」

どういう意図だったんだろう。

まさか俺が夢の中でパークに行ってるって分かっていたのか…まさか、あるわけないよな。


どうせまた夢の中で会える…










吹雪いていた。

それはもう相当で視界が全く許されない。

1メートル先を視認するのが精一杯だ。

まつ毛に雪が積もる。


「これほんとに日中かよ…寒い…」


空は暗いし歯がガチガチ言う。

こんなやばいアネクメーネに人型の生物が生きられるなんて正直信じられない。


「暖かくしてあげましょうか?」


突然、目の前の雪が渦を撒いて辺りに巻き散る。

沢山の冷たい礫が顔に跳ね返る。


「あ、アンタは…」


「オイナリサマよ…やっと見つけたわ、最後まで私の話を聞いてちょうだい」


「…いいけど終わったら俺の問いにも答えてくれ」


「いいわ。来なさい」


キッとあの目が俺を見つめる。

満月のように丸く明るい瞳には信じられない程の奥行きと輝きがたたえられている。

白いその手が俺の首筋に触れた––





「またここか…殺風景だな…」


「あら?また騒がしくしてあげましょうか?」


「やめてくださいおねがいします」


真っ白な部屋。

どこかのミュージックビデオのようだ。


「アナタには…こないだはごめんなさいね?気に触ることを言ってしまったみたいで」


「いや…いいんだけどさ…」


「かけなさい」


オイナリサマが指を鳴らすと木製の椅子が出た。

白の空間は暗黒となり、向かいの壁にスクリーンがでてきた。


「まずはこの話をしなければならないわね」


「これアレか?ファンタジーの映画とかでよくある伝説を語り継ぐ仰々しい人形劇みたいなやつ?」


「っ…否定できないわね…」


できないんだ。


「い、いいから座って聞いてなさい」


オイナリサマが話を始めるようだ。


「昔々…と言っても丁度半世紀ほど前の話…ここは太平洋のど真ん中だった」


スクリーンに少女の影が映される。

ほらやっぱり。


「都会にちょうどアナタと同じ位の少女が暮らしていたの…彼女は寡黙で…友達は居なかった。彼女は動物が大好きで、いつも頭の中はその事で一杯」


3秒程、窓の外を見つめる少女が描写される。


「だけど彼女は不幸にも若くして重い病気に罹ってしまったの」


少女が崩れ落ちる。

ベッドに横たわる少女が描かれるが、誰も側には居なかった。


「彼女には身寄りが無かった。彼女は孤独だった。空想の中で動物たちと話すのが一番落ち着いた」


オイナリサマが視線を伏せた。


「クリスマスの日だったわ…少女は願っていた。私の願いを叶えて下さいと…友達をただ一人、全てを話せる友達を死ぬ前に一人くださいと…彼女は自分の死を悟っていたの」


「…そして少女は?」


「その夜に亡くなった…窓間にもたれ、流れ星に祈っていた…最期が来るまで」


言葉が重い。

オイナリサマが話を続ける。


「その流れ星は燃え尽きなかった…そして海に落ちた。星のかけらは孤独だった…ただ友達を探していた…そして星に融合した」



「少女の願いは叶えられた。彼女の最期の願いが、祈りが生命を生んだ…新たなエネルギーを」


「だから前回…無理やり光と影を作ったって言ったんですね?」


オイナリサマが頷く。


「フレンズは全て彼女の理想の友人…私もその一人…全ての人格、島は彼女の願い」



「だからこの島もこの島に生きるモノも全て彼女の願望データにすぎないの…ただその願いはそろそろ期限切れよ」

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