17日 優しいあの子に


国語の時間。

ほとんどの生徒は寝ている。

俺は窓際後方の席に座っているから、ストーブをモロに受けられる最高の座席をとっている。

しかも何をしているのか先生にバレない。


ノートに一連の異常現象について書き込んでいく。


寝ることでパークに移動する事。

移動すると服装が変わっている事。

移動先は寝た日のランダムな時間である事。

つまり半分タイムスリップに近い。


何で…ありえないよなぁ。

全部ただの夢?

俺の妄想なのだろうか。

 



「おやすみー」


今夜もいつもより早めに寝る。

もしこれで移動するならこれは財団のおせわになるか俺の頭が逝かれたかどっちかなのだが。


目を閉じて軽く祈る。

移動しませんようにと。





案の定だ。

雪は降っていなかった。

そのせいで逆に視界も冴えていて、一層あのムカつくクリスマスのライトアップがチラつく。


「意味わかんねぇよ…」


結局のところなんなんだ?

ほっぺたをつねってみる…痛い。

いやもしかしたら夢の中でそういう感覚を疑似的に体験しているだけかもしれない。


横の木に頭をぶつけてみる。


「痛ぇ!」


「何してるんですか…?」


ハッと振り向くと、あのドールがいた。


「…あの食い逃げ犯ですね…」


「あ、あの、こないだはありがとう」


「いえ…それより何してるんですか…?」


木の上から雪が落ちてきた。

頭から真っ白になる。

すると、ドールがころころと笑い始めた。

つられておかしくもないのになぜか俺も笑い出してしまう。




「名前はなんていうんですか?」


「え…ダイチ…カヤマダイチ…です」


「ダイチさんかぁ…」


ドールはカフェに見た時と違ってサンタコスをしていなかった。

かわりにモフモフの分厚いコートを羽織っている。


「ダイチさんはどれくらいパークにいるの?」


「えっ…いるっていうか何というか毎日来るというか…」


おいおい頭の上にクエスチョンマークを6個くらい浮かべさせてしまったぞ…


「最近ゆきやまでダイチさんのこと見かけていたから…ふゆやすみ?ですか?」


「いや…まだなんだけどね…何かおかしくて」


「何がおかしいって?」


言ってみるか。

変人に思われるかもしれないけど。


「…ねぇ、これって夢じゃないよね?」


「そんなわけないじゃん??だよね?なんで?」


「あー…忘れて」


「ふふ、変な人!」


わぁ。笑った顔が最高です。


「今は何時か分かる?」


「えーっと…2じくらい?」


空は明るいし、多分昼間なんだろう。

もう考えるだけ無駄だろうか。


「なぁ…他のフレンズ…?何か言ってた?」


「大丈夫、ダイチの事は秘密にしてるから…多分」


「多分?」


あのジャスティス☆ガールに捕まったらヤバいことになりそうだ。

ジャスティス☆キックかなんかで地面が抉れていたのだが…死ぬよねあれ。



「しっ…誰かくるよ…」


ドールの耳がぴょこんと立つ。

やがて俺にも足音が聞こえてきた。

ドールが唇に人差し指を当てている。


「眠って」


あの冷淡な声だった。

ドールはフッと意識が飛んだようになくなり、柔らかい雪の中に横たえた。


「誰だ…」


体が強張る。

心臓がドクドクいっている。

ドールは大丈夫なのか?


「ええ、その子は大丈夫よ」


俺の考えを読んだかのような返答が返ってきた。

近くの木の裏から真っ白なフレンズが現れる。

太腿に白い紐が結ばれており、ブレザーをつけたキツネ耳のフレンズ。


「私はオイナリサマ。アナタはダイチね」


「何しに来たんだ?食い逃げの件か?」


「それについては問わないわ…だけどアナタには少し付き合って貰わなければならないわね」


「な、なんで俺が」


「夢の件、って言えばついてきてくれるかしら?」


「…」


このフレンズ、オイナリサマが何か俺の夢の秘密を握っているのだろうか?


「そうよ。私の腕を握りなさい」


白いブレザーに付いている雪をそのままに、柔らかく腕を掴む。




瞬きの刹那に俺は真っ白な正方形の部屋の中に飛ばされた。

無音、色もなく無風、匂いもない。

全てが無い世界。


「ようこそ、ジャパリパークへ」


後ろにオイナリサマが現れた。

声が全く響かない。


「ここはどう考えてもパークじゃないだろ…何したんだ?」


「いいえパークよ。それもパークの本質」


オイナリサマが壁を触ると、部屋一面に鼓膜が破れそうなくらいのノイズと様々な風景が映る。


「この島の意識よ」


「なんだこれ!耳が!やめろ!」


オイナリサマが指を振るとノイズは止んだ。


「サンドスターの全てをつなぎ止めておく星の記憶の貯蔵庫みたいなものよ」


「サンドスター?」


「この島の全ての構成物質よ…木も土もフレンズも全てサンドスター」


オイナリサマが手を振ると虹色のキラキラしたものが出て行くのが見えた。


「これがサンドスター、そして今のアナタも意識だけがサンドスターに入っているの」


オイナリサマがこちらに向き直り、そして深々と首を垂れた。


「え?」


「アナタにはこの島を救ってもらいたいの」


ここ、カクヨムだよね?

なろうじゃないよね?

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