仮宿の主であった原作主人公と、奇妙な共同生活をすることになったヒロイン。
縺れた糸が少しずつそして優しく解きほぐされていくような、彼女の心の変化を丁寧な文章で書き記したお話です。
8話と9話の間にある「登場人物紹介および原作との主な相違点」で述べられている通り、自己を喪失したヒロインが、自己を取り戻したいと願いそして再生していくのか。残酷に襲い掛かる過去のトラウマ、そしてどこまでも優しい原作主人公の無償の愛を、著者の多彩な表現で綴っています。
原作をお読みになった読者であれば、各人にヒロイン像があるかと思います。共感できるところもあるし、新しい発見もあるでしょう。本作においてはそのような各人のフィルタの違いを楽しむのもいいと思います。
基本的に原作と全く同じプロットで進んでいくと思われるので、未読の方も楽しめる内容になっていると思います。しかし是非、原作の読後に本作を読んでいただきたい。きっとあなたの知らない沙優にまた会えると思います。
著者の原作に対する深い愛情を窺い知れ、期待せざるを得ない作品に仕上がっていると思います。完遂されることを切に望みます。
追記
このような文章を書く機会があまりありませんので、文章の無作法には目をつぶっていただけると助かります。
原著は吉田視点を中心に描かれている為、沙優の内面描写が不十分で理解に苦しむ部分も有りました。
沙優が抱えている心の傷は、お互いの理解が深まる以前では、吉田の想像力では遙かに及ばない程に深く、吉田視点で描かれるストーリーから察する事は、物語の本質を態と一部見え難く誤解させる様に感じていました。
最初から沙優視点とする事で、吉田が理解しきれていなかった沙優の内面が表わされ、沙優の心の変化や本質が理解されれば…
吉田から見た沙優は原著で表わされていましたが、沙優視点での吉田さん・後藤さん・ユズハさん・あさみ、そして結子と母親・一颯らとの関係性が吉田フィルターを通さずに読める事を期待しています。
2021/06/29 初稿
2021/09/04 改訂(第1段落一部削除、第2段落追加、等)