第10話 光とドッジボール 2

「はぁ、はぁ……ほんと疲れ…た……」


今は十回目の試合中。

光と私の一騎打ち。タイマン勝負。

そろそろ暗くなり始めている。


さて。なぜ十回も試合をしているかというと。


────────────────────


「やったー!勝ったぁぁぁ!!」


一度目の勝負は私たち女子チームの勝ち。

試合に負けた光が、

「くっそ、もう一戦やるぞ!!」

と負けず嫌いを発動させ、二回目の試合を申し込んできたのである。

私もその申し込みを受け、また試合を始めたのだった。

でも、結果はまた男子チームの負け。

毎回私と光の一対一の戦いで、光が負ける。


……というのを九回も繰り返して、今に至る。


「照葉……お前ドッジこんな……強かったのか…よ……」


「ふ……だから言ったで…しょ……私を……舐めるなっ…て……」


「「二人とも、頑張れーー!!!」」


外野から皆の声援が飛んでくる。

それに応えんと、かがんでいた姿勢を元に戻す。


───刹那、二人の視線が重なる。


あれ。


なんだろう。なんか、漫画の主人公のめっちゃ大事なライバルとのラストバトルみたいになってない……?


「行くぞ、照葉!!」


「かかってこい、光!!」


オラオラと挑発し合い、そして、光の持っていたボールがすごい速さで私へ真っ直ぐ飛んでくる。

それを腕の間で挟んで受け止める。


「うおりゃあ!」


全力で投げる。

光が受け止め、力いっぱい私に投げてくる。

それを私が受け止め、投げる。光が受け止め───


ドスッ!


一瞬、何が起きたか分からなかった。

ただただ、鼻が痛い。頭も痛い。

でも……私の目の上で広がるのは、夕方と夜の狭間のような、なんとも言えない、綺麗な空だ。


「照葉!」


「「照葉おねーちゃん!」」


皆の駆け寄って来る、砂の踏まれる音が聞こえる。


「ごめん、照葉、顔に当てちまった……」


光が本当に申し訳なさそうな顔で私の顔を覗き込んでくる。


そっか……私……光に負けたんだ……


「えへへ、光、強かったわよ……こんなにドッジで本気になったの、本当に光が初めて。」


笑いながら、光と目を合わせ、にこりと笑う。

少しだけ、光がかっこよく見える。


「……お前も。あんな強かったんだな……」


顔にボールを当てられるなんて。

乙女として恥ずかしい顔してないかしら……

立ち上がり、顔や制服に付いた砂を払う。



…………って、あれ。待てよ。


 

ドッジボールって顔面はセーフじゃなかったっけ?



何かに気付いた顔をした私を見て、光は分かりやすーく目を逸らし、皆にもう帰るよう呼び掛けている。


「ねぇ光」


「……」


「光ってば」


「……」


じゃあねー、また遊ぼうねー、と子どもたちが帰っていく。


公園に残ったのは私と光の二人だけ。


「ねぇ光?ドッジボールって顔面は当たってもセーフじゃなかったっけ?」


「さ、さぁ。負けは負けじゃないのか?」


「いいえ?中学校の先生が、調子に乗って仲の良い男子の顔面にボールをぶつけた子に向かって、ノーカンだって言ってたわ。」


「……チッ。お前、なんでそういうとこだけ記憶力良いんだよ!」


「分かってて当てたの!?」


「いや、当てた時は言おうと思ったぞ?でもな!お前がもう負けた感じだったからいいかなと思ったんだよ!」


「光の負けず嫌い!!」


「お前ももう少し優しくなれよ!!」


さっきまで光がすこーしだけかっこよく見えてたのに。もう台無し。

暗くなったことだし。光は開き直ったことだし。もうそろそろ帰りますか。


「光!私は負けてないからね!」


「いいだろ別に!優しさを持てよ!」


「勝負の世界に優しさなんてないのよ!」


ぎゃーぎゃーわーわー言いながら、暗い夜道を歩いていく。


そして。


「警察に行こうかと思ったわよ!」



二人仲良く、小さい頃みたいに怒られに母の元へ帰ったのだった。

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