もし自分が侵されたら

 自分の頭の中には、曖昧な状態で眠っている沢山の物語があります。
 しかし怠惰な自分には、それらすべてを出力するような気力はありません。きっとそのほとんどは、ただの妄想のまま朽ちていくことになるでしょう。

 この作品のヒロインは、“物語を書き続けなければ頭蓋骨のなかを花に支配されて死ぬ”病を抱えています。
 
 だから、書きます。好調だろうがスランプだろうが、献身的な主人公の助けを借りて、どれだけコンクールに落選しても、とにかく書き続けます。
 力尽きて眠りに落ちるまで、食事中ですら書き続けます。外界との繋がりを遮断し、昼も夜もなくただただ書き続けます。
 それでも少しずつ少しずつ、「花」は成長を続けます。頭の中の物語を養分にして、彼女の脳を残酷に蝕んでいきます。
 
 もし自分がこの病に侵されたら。そんな想像を否が応にもしてしまう、物悲しくも素晴らしい作品です。執筆経験のある方には、特に強くおすすめすます。
 

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