『王の花束』は、きっといつか『星を斬る』ものへ

魅力的な主人公とはなんだろうか。
ありきたりではあるが、自分はなにかしらの『信念』を持っている主人公だと思う。

本作の主人公、梔・ルディ・クラン・ハビムトは、女エルフだ。
寿命千年を超えるエルフが『エンシェント』と呼ばれる世界で、クランはまだ五十かそこらの若造。つまり、ひよっこだ。

クランの目標は、『星』を斬ること。
『星』はもうべらぼうに強い。国中の、いや世界中の強者達が、「勝てるはずがない、勝てなくて当然だ。星に戦いを挑むなど馬鹿馬鹿しい」とサジを投げた存在だ。

しかしクランだけは、その『星』をいつかぶった斬るつもりでいる。
誰も彼もが「勝てるわけがない」と、『星』の剣を前にしてヘラヘラ笑う中で、クランだけが『信念』を持って本気で立ち向かっている。

ただ、クランはまだまだ弱い。
旅の途中で出会った仲間につい弱音を吐き出し、偉業を成し遂げた次の日には名無しモブにボロ負けし、ぶおんぶおん泣きながら逃げ出し、そして迷子になる。そのくらい弱い。

しかし、クランは『信念』を持っている。
友から貰った合い言葉で己を奮い立たせながら、少女は少しずつ少しずつ『星』へと近づく。

エスプリのおもむくがままに。
美しいだけの『王の花束』は、きっといつか『星を斬る』ものへと成るだろう。



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星を斬るクラン