エピローグ~乗ってけ!ジャパリビート~
ヒグマここに眠る、そう刻まれた立て札の前に。
彼は自転車を停め何やら語り掛けていた。
その何やらを左腕が欠けた黒かばんは知っている。
曰く自分の為でもあると。
「……死者を相手にする程メッセンジャーの仕事に精が出るようデ、それとも聞いてくれるフレンズさんがいなくて暇とカ?」
だから弾の代わりに皮肉を込めた。
弾切れなら接近戦という選択があるのに。
影響を怖れ遠距離口撃を続ける。
振り返った彼は気にした風もなくただ。
「君は、僕のしてることは無駄だって思う?」
「少なくとも亡骸は反応しないかト、それに埋まってるのはフレンズではなく動物のヒグマでしょうニ。」
「そうだね、それでも信じたいんだ。ヒトが忘れてもフレンズの間で孫悟空の伝説が広まれば、また会えるんじゃないかって。」
ヒトの認識だけが拠り所だったマジムン。
それをフレンズの認識にも対応させる荒唐無稽な夢。
だからってそのキンシコウは孫悟空であって。
自分の会いたい母ではない。
「黒かばんさん、僕は思うんだ。キンシコウさんは君に取り返しの付かないことをさせない為に、君の我が儘を叱ったんじゃないかって。」
気持ちに気付いてかそんなことを言う。
子を想う母の【本能】がそこにはあったと。
「……莫迦らしイ、だったらヒグマさんの件はどうなんでス。」
「それはまぁ、寿命だったから仕方ないと思うけど……。」
「なんですかそレ、そんな理屈が通用すると思わないでくさだいヨ。」
揚げ足を取る、そうやって勝ち誇る。
そうでもしないと自分の嫌いに折り合いが付かない。
それで考えるのはやめようと頭で分かってるのに。
言葉にして思い知らせたい自分がいた。
「……僕は貴女のことが嫌いでス、何をしようと言った所で変わらなイ。完全なヒトのコピーである存在その物がセルリアンでしかない僕にとっては邪魔デ、ずっといなく成ってしまえと思ってましタ。」
「それでいいよ。それは否定出来ない君の【本能】で、だったら僕も好きに生きるんだってそう決めたから。」
あぁだからよせばよかったのに。
他人をなんとか出来るなんて思い上がった。
何者にも成れない力のない獣、それでも彼は語る。
彼女達のメッセージを届けることなら出来るからと。
『これは貴女達にあげます。』
旅を終えた孫悟空は極楽鳥に言いました。
『いいのか、ソンゴクウのショウチョウたるニョイキンコボウだろうに。』
『ヒトに会いたいのでしょ? 極楽の御使いである貴女達なら私の力も借りれるでしょうし、私にはもう不要な物ですから。』
『そうか……、ありがとう。』
礼を告げ二羽は旅立ちました。
見送った孫悟空はモノレールに乗り込みました。
パークの誰の目にも留まらず環状運行するだけの。
先客の虎は尋ねました。
『それがキミの決めた道なんだね。』
『えぇ、私のことを待ってくれるヒトはここにいますから。』
『うん、私もだよ。』
出発進行、レールの上のけもの道だとしても。
ここに自分はいるから。
それで音読を終える。
だからって自分は何も言わなかった。
ただ生きるだけでもしてみることにした。
無理に許さなくてもいいって気付けたから。
お猿のキンシコウと泣き虫黒かばん 図書記架 @tosyokika
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