第2話

 「えぇ、と。初めまして、でいいでしょうか?」

 「? あノ、僕何処かで貴女と会いましタ?」

 「あ、いいえ。ないならいいんです、もしかしたら見てたんじゃないかって位の話ですし。」

 「見たっテ?」

 「この遊園地から私達のこと、そうオオカミさんから聞いたので。」


 キンシコウ自身何を訊いてるんだと思う。

 この中腰視点じゃ遊具を見上げるのが精一杯。

 なのに他人づての印象に引き摺られて。

 視線を合わせてもここにいる彼女に寄り添えてない。


 「ごめんなさイ……、何も憶えてなくテ。」


 だから彼女に泣かれる。


 「そ、そんな泣かせるつもりでは。」


 宥めつつ本当に彼女がと半信半疑。

 確かにかばんの面影はある。

 でもそっくりと言うより一回り小さく。

 そう、中身も含めまるで子供にしたようで。

 ……だから私の知りたいは叶わない。

 これがあの黒セルリアンの現在と聞かされても。

 実はオオカミさんの嘘という方が現実味があった。

 ……それでも期待してしまう。


 「……それともそれは、お芝居だったりしますか。――黒かばんさん。」


 オオカミさんを騙してみせたような。


 「っ……。」


 何を期待したと言うのか。

 思わず口に出たのはハンターとして当然の警戒。

 等と大層に言える資格はない。

 そうであって欲しいだけの推し付け。


 「ごめんなさい、私なんてことを――。」

 「貴女ハ、そう言ってくれるんですネ。キンシコウさン、ぐス……。」


 え、と反応せずにはいられないことを。

 ……そこに期待がないと言い切れないが。

 兎も角彼女の真意に耳を傍立てる。

 聞こえるのは啜り泣く声だけだった。


 「あ、あの……。」


 声を掛けてみるが彼女は泣くのに掛かり切りで。

 或いは無視という仕返しか。

 実際掴みかねる距離感に。

 立ち去る訳にもいかず途方に暮れる。


 「もう……、なんなんですか。」


 正直な気持ち、でも防げた筈。

 かばんが残した赤い石から復活した黒かばん。

 ……何故か子供の姿で異変時の記憶もないらしいが。

 改心した結果か不完全な代物か分からない以上。

 慎重に、以前に子供相手の接し方があったのに。

 ハンターの矜持とアロナーシングに心が鬩ぎ合う?


 「僕にも分からないんでス、どうして泣いてしまうのカ。」


 予期せずして同意を得られる。

 まさかの彼女の口からである。


 「もしかして、皆さんの前でもよく泣いてしまうんですか?」


 コクリ、と頷く仕草で。

 自分だけじゃなかったと一安心して少し自己嫌悪。

 は置いとくとして何故フレンズ問わず?

 自分のように揃って失言するとは到底。


 「いえ、口に出なくとも出てないとは言い切れませんよね……。」


 態度に、相手が相手だけに仕方ない。

 フレンズだからって誰にも平等とはいかない。

 それはセルリアンにも言えること。

 だからキンシコウは言う。


 「大丈夫です、黒かばんさん。」


 目線を合わせてだけで。

 手を合わせたりしたら涙を拭う邪魔に成るから。


 「無理に合わせる必要はありません、優しくされても上手く返せないこともよくあることでだからその……。そういう貴女がいたっていいと思います、きっとそんな貴女を受け入れてくれる誰かもいますから。」


 実に無責任だった。

 確かに【本能】のまま生きれたら素敵だろう。

 けれど彼女が【本能】のままに生きるとは。

 つまりそういうこと。

 かばん達にはパークを守る責任がある。

 そんな事態に成れば彼女を見過ごせない。


 「……今度会う時はゆっくり話しましょっか、黒かばんさん。」


 話はバツが悪くて約束を推し付けお仕舞い。

 きっと知りたいの為なら彼女に近付く自分は。

 彼女を受け入れる気がした。

 だけどこのハンター像を捨てたら自分はどう成る?


 「……。」


 黒かばんは立ち去るキンシコウを見ていた。

 目を離すことなくじっと。

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