お猿のキンシコウと泣き虫黒かばん
図書記架
第1話
「枯れ木も山の賑わい、ですか。」
事実そうなのだろう。
ここら一帯はサンドスターの影響で。
一年中木枯らしが絶えず吹く。
ここでこそ真価を発揮する獣がいるから。
「……見付けました。」
枝に蹲踞する猿が一人、キンシコウ。
彼女の視線の先にいるのは。
木々の合間をよろよろと飛ぶセルリアンが一匹。
あの黒い嵐の異変で生まれた個体の生き残り。
「大丈夫、私一人でやれます。」
明らかにサンドスター・ロウが足りてない。
元より戦闘向きではなく。
司令塔のいなく成った今脅威ですらない。
けれど棒を握る右手は震えていた。
「すぅ――、エェエ。」
息を鳴き声として吐いた瞬間、跳ぶ。
木から木へ弾けたように樹上を駆け廻る。
距離も高さも異なるそれらを次々と足場にせしめ。
右手が空いてない状況も物ともせず。
セルリアンが気付いた時既に追い付いてみせた。
あとは石目掛け思いっ切り。
「あら?」
だけど振るった棒は木に引っ掛かってしまう。
分かったことだろうに。
この密集空間で長物を振るえばこう成ることは。
そして反動で猿も木から落ちることも。
同時に猿だからこそ。
咄嗟に枝に尻尾を絡めて留まれる訳だけど。
「あぁ……。」
逆さ吊りの宙ぶらりんで。
セルリアンが慌てて飛んでいくのを見届ける。
まぁ放っておいても長くはない筈。
それより問題なのが。
「小鳥なら狩れた気がしたんですけど。」
そういう記憶が何処かにある。
けれどこの環境を狩り場としてたにしては。
棒という得物は不釣合いで寒い。
標高三千米もの山を生き抜くキンシコウなのに。
毛皮で守られた右手が冷たい風に震える。
棒を握る手のけものプラズムだけ機能してない証。
「これは、私の一部の筈……。」
ヒグマのそれと同じ。
幾度とハンターの死線を潜り抜けた相棒が。
だけど野生暴走から目覚めてずっと。
異物のような拒絶感を憶えている。
「貴女ならその理由を教えてくれますか、――黒かばんさん。」
元凶たりうる彼女に語り掛けるように。
危うくも叶わないと知りながら。
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