幕間
『僕は君に、この広いパークを見せてあげたいんだ。』
そう黒いもう一人の自分にかばんは言った。
思い出す、だけど今自分がいるのは。
「――。」
何も思い浮かばない暗闇の中。
本はあっても読めやしない窮屈で退屈な世界。
キョウシュウの図書館その地下室にて。
一人閉じ込められていた。
きっと死ぬまで解放されることはないと理解して。
それでも諦めるつもりはなかった。
『よくキけカンザシ、あのソンゴクウもどきがやっとメザめたがイマいるのは――。』
暗闇の中光る。
胸の内、自分だけが感じ取るヒトの本能の輝き。
電波に発光するアニマルガールのけもの部分。
その性質を応用した盗聴――。
「調子の方はどう、黒かばん。」
は肝心な所で地上から見回りが来る。
「見て分かりませんか博士? こうして昔の姿まで折角戻ったというのに、貴女位しか見に来る相手がいなくて寂しがってますよ。」
「貴女と触れ合うだけでも何が起こるか分かったものじゃない、皆を近付けさせる訳がないでしょ。」
「長だろうと例外じゃないでしょうに、本当は怖くて“ミミ”とか呟いてたりして。」
「別に、私にもしものことがあれば助手に任せてはいるから。」
長として責任ある発言、自己犠牲的でもある発想。
全く誰に似たのやら。
「所でどうして僕はここに閉じ込められてるんでしたっけ?」
「まさか忘れたなんて言わないでしょうね、貴女がキンシコウにしたこと。」
「そんな目で見なくても、彼女の関係者だったならまだしも貴女が産まれる前の他人事なんですから。それこそ客観的に見ないと、喩えばどうしてキンシコウさんはお守り石で治らなかったのか。」
サンドスター・ロウを吸収するセルリアンの石。
から作られたお守り石の首輪を付けたにも関わらず。
「あれは変異サンドスター・ロウによる野生暴走なんかじゃない、キンシコウさん自身の本能だったんですよ。」
「そんな話信じるとでも? ……その時のキンシコウを追い払ったヒグマが言うには、子供だった貴女を抱えて逃げようとしたんだとか。貴女の影響を受けてない野生動物がそんな真似するものですか。」
「アロナーシングって知ってます?」
「アロナーシング……?」
「きっとあの時の僕は、たった一度の出会いでそこまで思ってくれたキンシコウさんに救われたんですよ。」
他人事のように語る、事実そうなのだから。
今の今までどうして泣いてたかも分からずにいた。
「なんにしても【獣】の本能を望む貴女を出す訳にはいかない、私達は【けもの】だから。」
「僕も、フレンズの推し付けでしかない優しさにはうんざりですって。」
平行線は平行線のまま彼女は地上に戻る。
でもそれがきっと本来の形、ヒトと獣の関係として。
一人の暗闇に戻ったのを見計らい指先を見る。
星砂が煌めく様が綺麗だった。
――透けて消える指先を消費しながら。
もう長くはないと理解した。
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