第6話
カンザシフウチョウはスマホを片手にしていた。
無人のコンビニの柵に一人腰掛け。
見ようによっては待ち合わせの女子学生、なんて。
生憎死語に成って久しくWi-Fiも生きてるか怪しい所。
「やぁ、それってスマホって奴かい?」
二千年後のパークにおいて知る由もない。
けれど彼女は当然のようにそして突然現れた。
「あぁカタカケからのレンラクをマっているトコロだ、アムールトラ。」
だけど自分はそれを自然に受け入れる。
我々がそういう存在だから。
「ここ電波ある?」
「アタシのムネのカザリバネがヒカってるということはデてるみたいだが、ジツのトコロこれがなくともワレワレはテレパスなヨウリョウでハナせたりする。」
「えー? じゃぁなんで持ってるのさ。」
「イうなればこれはパフォーマンスだな、ハナれバナれだろうとパートナーがいるというイメージセンリャク。」
「成る程ね確かに、小道具なし(パントマイム)で見せるのは難しいよね。」
そう言う彼女の衣装はイメージ通りのサーカス意匠。
火の輪を握る手を見るが手枷はない。
「ハズれたか。」
「あの子に呼ばれてホテルにいた皆を逃がしたあとかな、そして今の姿に成った訳だけど……。」
「なんだ、ヒトがアムールトラにイダいたイメージにフマンでも?」
わざと意地悪に言いたく成る黒の性分。
だが彼女が気に掛ける相手は我々と同じヒト。
「そんなことはないよ、ただあの子が知ったらどう思うのかなって。」
「……ふふ、どうやらビーストだったモノならばキにせずにはいられないモンダイのようだ。まったくツミブカいソンザイだな、つくづくヒトは。」
「あはは、なぁんだキミ達もなんだね。……いきなり私に因縁を付けるばかりか、あんなことまで口走ったあのお猿さんはどうだか知らないけど。」
我々という理解者を見付けた矢先。
思い出したように複雑な顔先。
「まぁドウルイでもイロイロとオモうトコロはあるだろう、ワレワレもアイツにはヨダンをユルさないジョウキョウではいる。カタカケによると、ヒトのセルリアンによるヘンイサンドスター・ロウでカイフクしたものの、オマエにやられてからネムったままらしくてな。」
「それで連絡待ちって訳ね、そう聞くと余計に複雑だなぁもう。でも変異サンドスター・ロウって後天的ビースト化的な物じゃなかったっけ? だとしたら。」
「ビーストにモトドオり……、だがヒトのフレンズにおいてリセイをタモったケースもある。サイゴはアイツジシンがどちらのアりカタをエラぶかどうかかもしれん、――もうフレンズでいるのもゲンカイだろう。」
そもそも今までフレンズでいられたのが奇跡で……。
そこからは口を噤む。
近付いて来る足音を前に躊躇った。
まだ彼に聞かせるべきではないか等とらしくなく。
「あ、探したよカンザシさん。」
「ん、キミは! よかったよ、無事にホテルから脱出出来たんだね。」
話題にも上がったヒトの少年に一目散。
反応したのは勿論陽の彼女、遅れて陰の自分は坦々。
「ふむヒトリでサガしにキたのはセイカイだったな、でなければアタシといつまでもアえずジマいだったろう。」
「そういう物なの? そう言えばカンザシさんと会う時はいつもそうだったけど、さっきまでずっと一人だったんだから来てくれてもよかったじゃん……。」
「それは仕方ないよ、カンザシは私と話してたんだから許してあげて。」
見方によっては仲よく話す三人。
そう話を合わせるのも悪くなかった、けど。
「モトメられるのはワルいキブンじゃないが、ヒトリでいたとな。あんなことをイわれてもなお、あのイヘンをノりコえたオマエのコタえがそれか?」
「え、あんなことって何さカンザシ?」
「もしジブンがいなくナることをノゾむアイテがいたらどうするか、だったか。だからこそカいたエからセルリアンがウまれてしまったイヘンをトオし、そのトいにチョクメンしたハズだ。」
「こんな可愛い子にそんなこと言うなんて、誰だか知らないけど許せないなぁ。」
「それでもダイスきなミンナのいるこのパークがジブンのオウチだと、イってのけたオマエはなんだったのだ?」
話に混ざろうとする彼女に悪いが。
自分はヒトである彼に問わなくてはいけない。
「別に、僕の気持ちは船の上でカンザシさんに言った通りだよ。だからこそ皆が理由もなくあんなことを言うなんて信じたくないんだ、それが分かるまで一緒にはいられない。でないと、嫌いに成っちゃいそうだから……。」
彼の目は迷っていた、それでも。
確かな意志でこちらを見詰め直す。
彼ならばとその先に期待馳せながら。
彼女のことを思うなら留めるべきだった。
「カンザシさんなら何か知ってるんじゃないって思って、だから教えて欲しいんだ。どうしてカラカルも博士もリョコウバトさんも皆、――ビーストさんのことを憶えてないの?」
彼女の顔を見る。
さっきのお喋りが嘘みたいに静まり返って。
彼と話していけばこう成ることは分かっていた。
だからそう招いた自分がちゃんと話さないとだった。
「――アムールトラならイマここにいるぞ、オマエのシるビーストからスガタがカわってはいるが。」
「え? 何を言ってるの。だってここには僕と、カンザシさんしかいないでしょ……?」
「そうだな……、まぁシカタないか。ワレワレでさえニセンネンもカかって、ようやくオマエのようなコドモがヒトリでいるトキ、こうしてハナせるようにナったのだからな。」
そうまでして確かめたいことがあったから。
ビーストだったワレワレとしてヒトに。
「……アムールトラのテカセは、タンメイとオモわれたビーストがヒトのホゴタイショウだったナゴリだ。だがビーストはタンメイではない、でなければヒトのシられてないセダイまでイきるようなコタイはデない。ただヒトはシらなかったのだ、――ヒトにチカヅきスギたビーストがキえてしまうことを。」
「き、消えるって……。まさかっ。」
「そうだ、スガタだけではなくキオクからも。ヒトのニンシキにエイキョウされ、ジッタイのないイメージそのモノにオきカわる。ホンノウにモトづいたアりカタがビーストなら、ワレワレはヒトのニンシキだけをヨりドコロとするマジムン……。だからアムールトラはオマエをマモるのとヒきカえに、フレンズとのツナがりをウシナったのだ。」
二千年越しの真実を突き付ける。
ヒトはヒトでも子供が背負うにはあまりにも重い。
それでもヒトは彼しかいないから。
その時着信音、カタカケが呼んでいた。
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