第8話
その瞳をよく憶えている。
遊園地で泣いてフレンズを困らせるしかなかった頃。
ヒトのフレンズも例外ではなく困った顔。
例外は鳴き声と共に柵に乗って現れたそれ。
『エェエ……。』
目が合った、瞬間飛び掛かったそれは獣だった。
誰かに付けられたお守り石の首輪を頭にしたまま。
当然のようにビースト特有のオーラも纏って。
それこそキンシコウの本当の姿。
だから如意棒を捨てた手は躊躇なく子供を掛けた。
――黒かばんを優しく抱き抱える手だった。
『ァ――。』
その時何処か解放された気がした。
事実遊園地の誰にも自分達を捕まえられなかった。
『エェエ!』
しがみ付き直に伝わる鳴き声。
次に来たのは目まぐるしく変わる視点と重力。
次々と様々なアトラクションの柱や屋根を跳び交い。
それも自分を抱えてのそれ所か加速する。
何処へ連れてくのかとか別によかった。
けものの本能しか居場所はないここでないなら。
だけど境界線の木から外への大ジャンプは。
半分だけの成功に終わった。
同じ木登りが得意な彼女に滞空中を引き剥がされて。
首根っこを強引に掴みそして合ったヒグマの目は。
「……。」
現在ホテル跡にて前にしても向けて来る。
濁ってもなお変わらない殺意を。
「全く驚きですヨ、歳でもうロクに目も見えないでしょうに小舟でそれも一人でやって来るなんテ。よくここが分かりましたネ?」
「道すがらここいらでセルリアンの異変があったと聞いて、もしかしたらと思った。私も驚いてるよ、地下室にいる筈のお前が今ここにいることに。」
なら揃って驚いた素振り位見せればいいものを。
お互い覚悟出来た未来だから今更。
「何処で気付きましたカ?」
「最初から、石を残した奴が本当にあの約束を守れるのか疑問だった。実際野生暴走したキンシコウを見てもお前を壊さず幽閉で済ませた、それに島でキンシコウが目撃されたのは私がお前と引き剥がした時が最期だった。誰かが島の外に逃がした、そして船を出せるのはあいつしかいない。」
……ゆらゆら、ゆらゆら。
揺られる船の上。
港から見送るヒト影一人。
それは群れの黒砂糖に似たヒトのフレンズ――。
「お前の代わりに地下室にいるのは、――かばんだな。ずっと前からお前に手を貸してどういうつもりで、セルリアンのお前と分かり合えるなんてまだ信じてんのか。」
「さァ、お守り石で治せないと分かったらキンシコウさんのことを諦めテ。僕を捕まえるのを優先する非情なヒグマさんにはそれこソ、分からないんじゃないんですカ?」
「黙れっ、全部お前のせいだろう。お前さえいなければ、あの時お前を壊しとけばキンシコウは……。」
それでもかばんの想いを無下にしない為か。
無駄でもフレンズらしく彼女は確認する。
「なぁ知ってるか、ヒトのフレンズは自らの成長を拒んだら消滅するって。それでもお前と入れ替わる為に昔の姿にまで戻って……、それに何も思わないのか。」
「それがなんだって言うんでス、そんな自己満足な優しさ僕は求めてませン。」
「……そうか、それを聞けて私は安心したよ。お前とはフレンズに成れない、ただそれを聞いても諦めてくれない奴がいる。だから――、」
言葉なんて届かない。
「お前の石を抉る。そしてそれをかばんの目の前で壊す、そうでもしないとあいつは目覚めない。」
だから力付くで通すしかない。
だから力のない獣は子供は……。
「そうですカ、そうでしょうネ。貴女にはそうするだけの力がありますものネ、生態系の頂点さん相手に嗅ぎ付けられたら最期僕達に居場所はなイ。だからここにのさばらせる訳にはいかないんですヨ……、今もキンシコウさんの本能を認めないような貴女ヲ!」
拳銃を取り出し構える、より先に彼女は構え済み。
見えなかろうが防がれる確信。
そう分かっていたから自分は空に掲げ撃つ。
音を撃ち出すのと思い入れある拳銃を見せる為。
そうすれば目覚めるだろう。
ほら、瓦礫から彼女の足を掴む手が。
「っ……、」
すぐさま熊手で薙ぎ払ったのも束の間。
瓦礫に埋もれた一眼のフレンズ型がぞろぞろ。
「なんだ、こいつらは!?」
「先日の異変の生き残りですガ、掴まれるまで気付けないなんテ。老いぼれハンターにはお似合いな姿ですヨ、それではせいぜい足掻いてくださイ。」
「待て! 黒かばんっ!」
それが最期の言葉に成ると期待して。
フレンズ型が抜けた隙間からホテル内部に潜り込む。
ここに逃げたっていつ崩落して可笑しくないし。
きっと自分も瓦礫に埋もれる位がお似合い。
それでも最期までは足掻く。
それでもキンシコウとまた会えたらなんてヨぎる。
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