八、オミヨの七五三
早速、ウメお婆ちゃんに、このことを話すと、顔のない人について語ってくれた。
影法師、疫病神、悪霊、死神…………。
江戸から遠い海を越えた異国でも、同じような話があるそうな。
病の子を抱きかかえ、医者まで走る父親の話。
子は追いかけてくる"死"を見るも、父親はそれが見えず、ひた走る。
最後は死に追いつかれ、医者に見てもらう前に、子は死んだのだ。
こんな話もしてくれた。
子供は神様からの贈り物で、七つになるまでは地に足の付かない存在だから、いつ神様に連れても不思議じゃない。
ケガや病気で死のうと、それは神様が決めたこと。
たとえそれが、親に殺されようとも……
季節はいっそう冷え込み、冬に入る。
時期が変わり、私は一つの節目を迎えた。
「お母ちゃ~ん。出来ない~」
母は呆れ顔で、私が巻こうとする帯を押さえつけ、帯を持ったまま腰に手を回して巻き付ける。
「もぉ~この子は手がかかるねぇ?」
赤白桃色、色とりどりの菊の柄が入った、四つ身の振袖。
普段着ることのない艶やかな着物は、身につけるだけで、はしゃいでしまう。
母は着付けをしながら、うんちくを語る。
「七五三はね。三歳、五歳、七歳まで、オミヨを生かしてくれた神様に、感謝する行事なんだよ。子供が元気で丈夫に育つことは、それだけで奇跡なんだから……はい、出来た!」
母は着付けが住むと、私の腰を軽くポンと叩いて仕上た。
続いて閉じた扇子を、着物の胸のあたりへ差し込む。
「末広」と呼ぶ扇子で「末広がりに幸福と繁栄が続くように」
という意味あいがる縁起物。
母は私の手を取り、薄い箱を渡す。
「はい。
「ハコセコぉ?」
「お化粧道具だよ。いいかい? この着物、借り物なんだから、汚しちゃ駄目だよ?」
「うん!」
言われた通り、筥迫を袖に入れた。
父が遠くで着付けの様子をうかがい、無事終わったことが解ると、笑みをこぼしながら私に話しかける。
「お〜お〜。大人になったじゃねぇか? よし! オミヨ。千歳アメ買いに行こうか?」
「うん!」
外に出て、ご近所さんにご挨拶をし、私は父と母に挟まれ、川の字になって三人で手を繋いで歩く。
今の私は丈夫に育ち、いい縁談とも巡り合い嫁いだ。
三人の子宝にも恵まれ、幸せに暮らしている。
今になり、子供の頃のことをよく思い出す。
――――――――顔のない人。
どうして、そんな不気味なことを思い出すようになったのか。
それは、一番上の子が、もうじき七つになる。
死は遅かれ早かれやってくる。
そして大人や子供問わず、万人にやってくるのだ。
そして私の子供も今、あの時の私のように、病に伏せっている。
この子にも、冥府の使いが、降りているのだろうか…………。
お願い神さま。
この子を……私の子共たちを連れて行かないで…………。
――――七つまでは神のうち――――
終
七つまでは神のうち にのい・しち @ninoi7
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