第21話 クス・ハント〜巨乳幼馴染の投げキス

すっかり涼しくなった晩夏のある日。



「マサルや。真弓子ちゃんと仲直りする気はないのかのう」



アヤコばあちゃんが悲しげに呟いた。



真弓子とあんな事があって以来、アヤコばあちゃんはその事をいつも気にかけているようだった。



「真弓子ちゃんはマサル、お前にとって重要な女の子じゃ。将来お前のお嫁さんにしたい子ナンバアワンじゃ」


「だから、俺の結婚事情を勝手に決めないでってば……」


このやり取り何回目だ?



ただ、あの日の事は俺の真弓子に対する八つ当たりに近かった事は確かだ。

それは自覚してる。

何の悪気も無い真弓子を傷付けてしまった事も悪いと思ってる。



でも、だからこそ、真弓子に会うのは気まずかったんだ。



「ちょっと会ってくれるだけでいいんじゃ。それだけで真弓子ちゃんは大喜びする事じゃろうて」



そんな、アヤコばあちゃんの言葉に押された。仕方ない。謝るだけ謝ってみるか。



引きこもりの俺だが、俺は久しぶりに外へ出て南条家を訪ねる事にした。

真弓子に会うのも気まずいが、真弓子の家族に会うのはもっと気まずい。



オッドアイでニートである俺を差別しない人達である事は分かっているが、中学生くらいの時から会っていないし母親を通して俺が大学を中退した事も知っているだろう。



一体どんな目で見られるのか。



しかし、そんな俺の心配は杞憂である事がすぐに分かった。

真弓子の母親ーー俺は昔から普通に『おばさん』と呼んでいたーーは、とても温かく迎えてくれた。


気のせいかもしれないが、嬉しそうにしてくれているようにも見えた。



「まあ、マサルちゃん!? マサルちゃんじゃないの、立派になったわねえ!!」



ニートの俺が立派な訳が無いんだが、恐らく体格の事を指しているんだろう。

おばさんは恐縮する程快く出迎えてくれた。



「おばさん、お久しぶりです。すみません、手土産も持たないで……。今日は真弓子に用があって」



俺と真弓子はケータイの連絡先を交換していないのだ。だってスマホでやり取りしたら真弓子のメール攻撃が凄い事になるのは目に見えているから。


だから、それまでだって真弓子はウチの家電に連絡したり急に来たりして会っていた。



「あらあ」


とおばさんは残念そうに言う。


「ごめんねマサルちゃん、真弓子はまだ帰っていないのよ……。友達との飲み会だって言って。いつもはそんな事めったに無いんだけどもね、今日は珍しく……」


「そうですか。ーーじゃあ、また来ます」



もう来る気は無かったが。



あの時の猫が陰から尻尾を出してニャーンと鳴くのが聞こえた。



飲み会か。

俺にはアヤコばあちゃんや梅子、愛子や麻里亜子みたいな狭い世界でしか人間関係が無いけど、真弓子は違う。



真弓子には真弓子の、俺の知らない側面がある。



それが、俺が真弓子に対して惹かれながらも、無性にイライラさせられる原因の一つになっているのではなかろうか、と帰り道をトボトボ歩きながら俺は考えていた。



アヤコばあちゃんが悲しむ。

でも、もう会うまい。

真弓子に会って、付き合いを続けても俺が情けないだけだ。



と言っても、真弓子は俺の家に訪ねてくるだろうか。あんな事があった後でも。


無いかもな。

俺はあの時本気で怒鳴りつけていたし。



道行く男女が嬉しそうに手を繋いで歩いている。

何がそんなに嬉しいんだ?

秋は近いとは言えベタベタするのにはまだ暑いだろうに。


イチャイチャも我慢なのか?

俺には分からん。



と、嫉妬混じりでカップルどもに心の中で悪態をついていた俺だったーー。



ーーがーー。



前方から真弓子が歩いて来ていた。



真弓子は最初、浮かない顔で上の空の様子に見えたが、俺の顔を見て、ハッとしたようだった。



実に2週間ぶりの再会だ。



真弓子は花のような笑顔を見せたようにも感じられたが、悲しげにも見えた。

走り寄ってくるかな、と思ったが、真弓子は足を止め、しばらくの間俺の目を見つめた。



やや遠くからだからよく見えなかったが、その日の彼女もカラーコンタクトを着けていたようであった。



スカートも長い。

ブラウスは長袖だ。

胸も相変わらずデカい。


そして酒に酔っているふうでもない。



「ーー真弓子」



俺は思い切って声をかけた。


すると真弓子は、黙って投げキスを俺に送り、一目散に逆方向へ走って行った。



「真弓子!! どこ行くんだよ、家は逆だろ!!?」



俺は思わず真弓子を全力で追いかけていた。



何で投げキスなんかしたんだ、元々グイグイくる女ではあったがそれをした後に逃げ出すなんて無茶苦茶な女だ。



そろそろ夜がやって来る時間だった。



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