第3話 ヴェー・ムート〜美しき巨乳幼馴染の物悲しさ
「マサルちゃんとデート出来るなんて嬉しい! これで2回目? 3回目かな?」
「デートじゃないだろ。アヤコばあ……アヤコがどうしてもって言うから」
引きこもりの俺にとって外に出るのは3ヶ月ぶりくらいか。
胸をぷるんぷるんさせてミニスカートを履いている真弓子と並んで歩くと男共の視線がうるさい。
女のファッションについては詳しくはないが、最近ではミニスカートより長めのスカートの方が流行っていると聞くのに、こいつときたら。
「おい、ズロースが見えそうだぞ」
「だからズロースとか言わないの!! ……アヤコちゃんて独特だよね」
「美味しいハンバーガー屋さんがあるんだ」と真弓子に無理矢理連れて来られたのは、何とバーガー1つで800円もする店であった。
マックだったらその4分の1の値段で似たような物が食えるというのに……。
「高過ぎだろ!! ドリンクも入れたらばあちゃ……アヤコから一応預かった2000円札じゃ足りねえじゃねえか!!」
そうは言っても俺も万が一に備えて3000円くらいは持って来ているのだが。
アメリカのハンバーガーショップを意識しているのだろうか、店内はやけに洒落ていて広々としていた。
天井にはゆったりとした速度でシーリングファンが回っている。
「マサルちゃん何にする? 私のおススメはこのアボカドバーガーなんだけど。アボカドたっぷりで美味しいんだ。この店はパテも凝ってるんだよ」
「俺は何でもいいよ。お前に任せる」
「もう、連れてき甲斐がないんだから」
引きこもりの俺に言うな。
全くアヤコばあちゃんはこんな女のどこを見て『良い子』だなんて言うのだろう。
「じゃあ、このアボカドバーガーを2つと……飲み物は何にする? 私はアイスコーヒー」
「じゃあ俺もそれで」
先にドリンクを受け取ってから適当な席に着くと、真弓子はテーブルの上にふわんと胸を乗せて、「どう? このポーズ」と誘惑してきた。
先ほども言ったが、俺は真弓子のこういう所が気に入らない。
「どうとか、別に何も感じないな。お前がそれで良いんだったら良いんじゃね? そんなに大きくちゃ肩も凝るんだろうし」
「相変わらずつれないなあ」
真弓子はアイスコーヒーをぐいぐい飲み、アハっと笑った。
「お待たせ致しました。アボカドバーガーお2つですね」
「来た来た!! さあ、食べよ!!」
そのハンバーガーは俺の見た事のない面妖な形状をしていた。
まず上部に乗せられているはずのバンズが無く、オープンサンド? みたいになっていた。
自慢だというパテの上には1個分丸々使ってるんじゃないかと思われるスライスされたアボカドが綺麗に並べられていた。
「……これ、どうやって食べんの?」
「ナイフとフォークで切っても良いし、バンズを上に乗せてギュウギュウ潰して食べてもいいよ!」
色々と流行りのもん知ってるんだな。
俺は手が汚れるのを危惧してナイフとフォークでちまちま食べる事にした。
確かに味は美味い。肉汁が滲み出てくる。
一方、バンズを上に乗せてギュウギュウ潰して食べている真弓子は、大口で食らいついて「んー、幸せ!!」と嬉しそうだ。
食事を済ませ、残しておいたアイスコーヒーを飲みながら、真弓子は物悲しそうに言う。
「マサルちゃんてさ、子どもの頃から他の人には穏やかに振舞ってたじゃん。でも、私にはずっと冷たいよね……何で?」
「お前が、他の人と違ってグイグイくるから」
「だから? それだけ?」
「それだけ」
真弓子はまた物悲しそうな顔を見せた。
ほだされないぞ。
クルクルとストローでアイスコーヒーをかき混ぜながら、真弓子はまともに俺の目を見つめて言った。
「私、マサルちゃんの目、好きだよ。神秘的で」
「じゃあ俺と目を入れ替えてみるか?」
「出来る事なら、今すぐにでも」
そう言って真弓子はにっこりと笑顔を形作った。
悲しさを押し殺し無理をして笑っているのが丸わかりだ。
だけど彼女はハイスペックだ。引きこもりでニートの俺の事など時が経てば忘れるだろう。
きっと良い男が見つかる。
俺は真弓子の事を全く好きじゃないんだし、そうなれば離れてくれて万々歳だ。
そんな事を漠然と考えていると、真弓子は
「じゃあ、お会計してくるね」
と立ち上がった。
「え、おい、いいよ。俺もアヤコから渡された金以外に奢れる分だけ持ってきてる」
「いいの、ここは私のご馳走!! 最初からそのつもりで来たんだから」
最初から……? 何故?
真弓子はまた物悲しそうな目をして、
「やっぱり、覚えてなかったんだね」
と呟いた。
「覚えてないって、何を?」
「今日、マサルちゃんの誕生日じゃん。ハッピーバースデー、どうしても一緒に過ごしたかったんだ」
…………。
俺の右目。黒い方の目の眼輪筋がかすかに動いた。
本当に、真弓子に言われるまですっかり忘れていた。
「ああ、外は蒸し暑いねえ」
店を出た俺達はゆっくりと帰路についた。
相変わらず、真弓子を見る道行く男共の視線が気温以上に熱い。
俺の眼輪筋はまだ少し動いていた。
「あのさ、お前何でそんな短いスカート履いてるの?」
「好きだからだよ!」
好きだからだよって、俺に対して言ったのか、それともファッションについてか。
話の筋からしてそりゃファッションの事だろうが。
「あのさ、真弓子、お前……」
「ん? 何?」
「いや、何でもない。下らない憶測だ」
「何々、気になるじゃないかー!!」
真弓子はギャーギャー喚いている。
(お前のその、ミニスカートや胸を強調した服装ってさ)
俺の心の声だ。
(もしかしてだけど、俺と並んで歩く時に、自分の方に視線を集中させて俺の青い目を庇ってるんじゃないのか?)
心の声、終わり。
だがもし俺の心の声が当たっているとしたら、真弓子、お前はとんでもなく鈍感な計算違いをしている。
まず、ハイスペのお前が人の視線を集めるだろ? すると、周りの人は『こんなきれいで目立つ子が一体どんな顔した男を連れているのか』と俺を見るわけだ。
そうすると、大抵の人は俺の片方だけ青い目を見てギョッとしたり、不審そうな顔を向けたりする。
俺の大嫌いなあの表情。
お前のファッションは逆効果なんだよ。
もしかしての話だけどな。
「全く、自分の誕生日にすら興味が無いなんて……。これだから、放っておけないんだよ!!」
真弓子はまた、アハと笑った。
「マサル、ライスッカレーを作っておいたぞ。もしお腹が空いたら食べるんじゃ、誕生日だからお前の好物を作ったのじゃ」
家に帰ると、アヤコばあちゃんまで俺の誕生日を覚えていてくれていた。
腹は一杯だが、アヤコばあちゃんの『ライスッカレー』は何だか甘くて懐かしい味がした。
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