十三丁目 幼女に口無し
私はあくまで観察者であるため、理由が必要となる。
そこに、意味を見出し、後世に伝えることが使命だと感じているためだ。
まあ。
嘘である。
単純に、この場で起きた事実を確かめたいと思っているだけに過ぎない。
私は、この町から人が全員いなくなり、無人となった数か月間の記録をつけようと考えている。
そのために、このような形でカメラを回しながら町の中を歩いている。
町の名前はカゼンという。漢字という島国独特の象形文字のようなものに対する理解は全くないので、音として記憶している。
カゼン。
なんでも、夏を意味する言葉だそうである。日本の四季を重んじるその考えには、非常に感動するが、だとするならば、一年の中で一時的に訪れるものを、永続的にそこに存在するものにつけるのは余り、好ましいとは思えない。まるで、一年に一度だけで後は消えてしまう町、という意味にとられかねない。
カゼン。
不思議な単語である。
日本らしい、アジアらしい発音と言える。
駅のホームを先ほど撮影したが、見ての通り、全くそれらしき姿はない。ただ、ストリートアート、グラフィティや大量のウサギのぬいぐるみが散乱するのみである。見ていて中々に奇妙であったし、この立ち入り禁止の区域内で誰かがいるということの証明にもなる。
遭遇することができれば、何とかインタビューを試みたい所である。
私が言える立場ではないのかもしれないが。
この町を知って考えたことは。
文化そのものであった。
男性にしろ女性にしろ、シンボルとして扱うことによって発展した文化はようやく一つの結論に達するに至った。それは文化を文化の中でとどめて置くのではなく、政治的な場所または社会的な場所に引きずりだすことである。
決して、文化がそのような場所から身を引いていてこそ価値を生む、というようなことを伝えたいわけではない。
重要なことは、それらがその文化の意思によるものではなかった、ということである。
明らかにこの町は、過疎化をしている、しかし、その過疎化を嫌悪しているのは町ではなく人間の方である。
文化を、文化そのものの価値以上であると高らかに宣言しやり玉にあげたのは、文化ではない。人である。人間なのである。
私の知る限り、日本にはそのような形での文化への干渉が多すぎるのである。文化を作っているということへの、いささか奇妙なほどの自信と、それそのものの定義というものに自分の正義を重ね合わせる、狂気性。
最早、誰も文化など楽しんでおらず。
その文化がたてる波風を心待ちにしているのである。
そものの本質など、どうでもいい。
いかに、その本質がないがしろにされて、自分たちの考察が花開くかを楽しみにしている。
言うなれば。
そう。
文化の強姦。
これが文化が発展し、発展しすぎたことで生まれた最後の遺物である。
消せない。
消すことのできない。
消し去ってもまた生まれる。
文化の二次的産物が、文化の一次的産物を食い荒らす。
そして。
そうやって消えてなくなるまでをエンターテイメントとする。
文化なのである。
人は、とうとう、文化というものの楽しみ方に新たな方向性見出したのだ。
日本は、かくも早い理解と、かくも精緻な思考によって。
いや。
誰かいる。
誰かがいる。
人だ。
人がいる。
きっと。
あれはおそらく。
「ようこそ、良い町でしょう。」
あんなにも遠くから話しかけてきた。
手を振ってみる。
「駅から降りたのは、何故かしら。」
あれは、誰なのだろうか。
日本語で話しかけているが、正直、私は日本語が分からない。
ジェスチャーもいいが、自動翻訳機を取り出してみようと思う。
「誰も知らないから言うのだけれど。」
よし、これで自動翻訳して会話をしてみよう。
「あの駅、本当は町の外にあるのに、皆知らないの。だから、いつも。」
スイッチはここだな。
「丁度、そこで死んでいくの。」
ロリコン地獄 糞喰らえ エリー.ファー @eri-far-
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