十二丁目 幼女千里を走る

 はい。

 この状態で、大丈夫ですか。

 いえ、少し右にずれることもできますけど。

 いや、ああ、大丈夫ですよ、別に、こちら側は広いので。

 ちょっとだけ、椅子を引けばそんなにはならないんじゃないですか。もし、あの、荷物とかあったらこっち側に置けるので、全然渡してくれれば大丈夫です。

 いいですかね。

 あの、黒い鞄は大丈夫ですか。

 あ、はい。分かりました。じゃあ、大丈夫ですかね。

 私はいつでも大丈夫です。

 なんか、その緊張しますね。

 だって、そうじゃないですか。この会話が後世まで一応、一つの研究材料として残るわけですもんね。それは、ちょっと恥ずかしいですよ。私の言葉を信用する人たちがいてそこから分かる事柄を積み重ねていって、今日、何が起きたのかを正確に理解しようとする人たちの手助けみたいなことをするわけじゃないですか。

 もう、なんていうか、すっごく責任重大ですね。

 でも、もう覚悟は決めたので、大丈夫です。

 はい、お願いします。

 簡単なところから話していった方がいいですよね。はい、大丈夫です。じゃあ、本当に最初の所から。

 確かに、他の十一人の幼女を殺したのは私です。

 何故、殺したのか、そのことについて話していきますね。

 元々、この町が過疎化で苦しんでいたのは事実としてありましたが、決してそれ自体は大きな問題でもなんでもありませんでした。重要だったのは、元々、この町がここに生まれたきっかけが十三人の幼女を人柱として使った儀式だったからです。

 つまり。

 過疎化を止めるための儀式よりも前に。

 この町自体が存在していることが儀式自体によって成り立っていたものだったんです。

 儀式でできたものに儀式を掛け合わせる。 

 そのことを問題視しているのではなくて、それを実際に行ってしまうと。

 あくまで上書きが起きてしまうということなんです。

 つまり、町がここにあるということの上書きとして過疎化を食い止めるというのが起きてしまうので、結果町がなくなり、なくなってしまった町に対して過疎化も何もないので、意味がなくなる。

 つまり、ただの無駄になって終わってしまう訳です。

 そのためにも、今回の儀式は止めるべきだと思いました。

 本末転倒ですし。

 でも。

 そもそもこの町がなくなって欲しいと思っている人たちもいました。

 日本の中枢におられる方々、つまりは政治家の方です。

 あの町には儀式のために集めた資料や、その実験結果が置かれています。儀式自体は国連で誰も行ってはならないという条約が採択されていますから、どの国も証拠の隠滅に追われることとなりました。

 町の消滅は。

 町自体が抱える資料の消滅。

 都合がよかったんです。

 そのために何人かがこの町に入り込み、儀式自体の調査を行い、幼女を殺そうとした。殺してから巫女を使い、願いの変更をすれば直接町を消滅させることができます。町の人間たちが日本政府の目的に気が付くよりも前に手を打てるなら打ってしまった方が良い。

 それが結論でしょう。

 私は誰よりも町が大好きです。

 町のために生きていたいと思ったし、そのためにこうして人柱として立候補して潜り込むこともしました。

 なんだって、やりました。

 これからもやるつもりです。

 私が直接殺した。とか、思ってますか。

 そんなわけないじゃないですか。

 ただ、この見た目ですから、いいようにしてくれるお客さんも多いんです。

 お願いを聞いてもらいやすいんですよ。

 ね。

 私の話を分かってくれる、そういうお客さんが多いんです。

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