五丁目 幼女を叩いて渡る。

 重要な点が幾つかある。

 例えばだが、俺がこの場所で死んだことは間違いがないとしても生き返ったこと。

 つまり、この幼女十三人を生贄とした儀式の本質は今まで考えていたものとは大きく違っていた、ということである。

 重要なのは、過疎化を止めるということ。

 人口の流出をいかに食い止めるか、という意思が結果として、出て行こうとする人間の命を奪った。

 普通であればそのように思うし、それが正解だとも思う。

 本質は違う。

 これは、囲われた世界の中、つまりはこの幼女を人柱とした儀式の及ぶ範囲内の話だが。

 人口が減らないこと。

 これにつきるのである。

 つまり。

 人が死ななくなる。

 これが答えである。

 俺も、ここに来てから定食屋で確か殺されはずであったのに、気が付けば生き返っていた。

 不思議なものである。

 俺や政府はそもそもの部分で誤解をしていたのである。

 過疎化を食い止めようとしている。これは事実である。

 しかし。

 その町から出るものを殺すことで村の中に閉じ込める。これは間違っている。

 目的ではない。

 そもそも、町の中に閉じ込めようとした行為は、村の外に出てしまうと寿命なり、事故なり、事件なりで死ぬ可能性が生まれるためである。そのために、町が人のためを思って、町の内側で殺すことで外に出て行かせない、つまり不老不死の状態を維持させてあげようと思ったのである。

 決して、人に対する悪意ではない。

 むしろ、善意なのだ。

 そして、これは意味を違えれば。

 この町になによりの名産品、不老不死というものが生まれた、ということでもある。

 死にたくない人間は町に集まるだろう。

 これが答えである。

 町の中の人間たちは死ぬことがないので、人口は増える。

 不老不死を聞きつけた人たちが移住してくるので人口が増える。

 過疎化は止まる。

 これが狙いか。

「もう少し、奥に動かすか。」

 先ほど頸動脈を切って殺した幼女をそのあたりに違法駐車していた赤い車のトランクを開き、そこに詰め込んだ。

 十三人の人柱。

 その中の一人。

 俺が殺されてから生き返った時間を何となく割り出しておき、その殺したばかりの生贄かつ幼女が復活するまで待つ。

 時間は過ぎた。

 一時間。

 二時間。

 三時間。

 結論は出た。

 生贄となった十三人の幼女は不老不死にはなれていない。死んだら死んだままのようである。生き返ることはない。あくまで、儀式に関係のない人間たちに対してのみ、ということだろう。

 本当に、この幼女十三人は。

 誰かのためだけに命を使ったということになる。

 俺は自分の生まれた町のことを不意に思い出す。もう、過疎化が進んで統合されてしまった。名前はどこにも残っていない。

 俺はトランクを閉めると、直ぐに森を抜けるために歩き出した。

 政府は、日本から人が流出するのを恐れて、同じように人柱を使った儀式を行っている。その人数は十三人どころではなく、数百人といった規模である。何人かの女はその儀式用の幼女を生むためだけに妊娠と出産を繰り返していた。

「ああ。やだやだ。」

 ただの独り言。

 思い出しても吐き気を催してしまう、そんな自分の心の弱さを情けなく思った。

 六年ほど前だろうか。

 性転換手術も受け。

 元人柱の幼女という肩書も捨て去ることができたのは。

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