三丁目 秋の日は幼女落とし

 あたしは、町の公園に向かって、歩いていた。

 重要なことがある。

 それは、あたしも含めたこの十三人の幼女を使った、儀式の効果というものは挿げ替えることが可能だという事である。

 つまり。

 誰かがこの十三人のうちの中にいる巫女に対して、正当な手続きを踏むことができれば、悪用することも可能だということだ。実際にそうやって人が亡くなったり、町や村自体がなくなったり、雨がやまなくなった土地があると聞いている。

 十三人の幼女を使った儀式自体が、本儀式よりも簡略化されたものであることは正しくとも、そこから生まれる効果が同じように小規模で済むとは言い難い。

 分かってはいたのだ。

 あたしたちも。

 やるということは、どうしても、責任がつきまとうこと。

 それは知っていた。

 でも、実行に移されてみると、まだ殺される方がいいと思えるようにはなった。本当に怖いのは十三人の中にいる巫女が誰なのかがばれてしまうことだ。

 公園には、そのために小さな核シェルターがあった。

 そこに、巫女はいる。

 あたしはその巫女の元へ食料を届けるために向かっていた。

 核シェルターを作るために協力してくれた大人たちの大半は、この儀式のおこぼれをもらおうと考える者ばかりだった。

 結局。

 ことが済んだあたりで直ぐに殺した。

 それしか使い道がなかった。

 あの定食屋のおばさんもそうだ。

 自分の願いのために使おうとしていた。裏で動き回り、結社を作っていたということまでは分かっている。しかし、それまでだ。

 それ以上の情報はない。

 公園には誰もいなかった。

 ジャングルジムの裏にある鉄棒、その横の草むらにあるマンホール。

 どうしても持ち上げることのできないそれが核シェルターへの入り口となっている。

 それが開いていた。

 あたしは、静かに手を挙げる。

「申し訳ない。特捜部のものです。」

 後ろから声がする。

「さっき、一人。」

「定食屋でこちらの人間を一人、殺しましたね。確認は既に済んでいます。」

「二人いたんだ。」

「さあ。それはどうでしょうか。ただ、お互いが別々の任務でここにいるということは教えておきましょう。」

「十三人の幼女皆殺しのためじゃないとして。」

「巫女の利用ですよ。」

 やはり。

 そう来たか。

 過疎化を止めるという願いをかなえるなら、確かにこの儀式は余りにも強大だ。実際、これしかできなかったので致し方ないと言えばそれまでだが。

「何を実行するの。」

「全国の幼女皆殺し。」

 は。

「幼女による人柱は実は多くの地方で行われている非常に簡易的な儀式です。大きな効果も生みますが、別に同時にその儀式を行われない以外は、差し迫った問題ではありません。ですが、そうであったとしても、この日本という国において、こんなにも有用な、幼女というシステムを放置するわけにもいかない訳です。」

「日本、幼女駆逐計画。」

「正確には皆殺しではなく、それもすべて人柱にするということです。」

 あたしはため息をついた。

 見事だと思った。

 完全に詰将棋そのものだ。

 打つ手がなくなってきている。

 今後の展望がここまでできているということは、今現在の足元での動きは完璧になされているとみるべきだろう。

 草むらの外にはフェンスがあるのだが、その四隅に何かが引っかかっているのが見えた。

 指と爪だった。

 そこから伸びる赤い毛細血管。

 あたしが来る前に心配して、他の幼女が来ていたのだ。

 でも。

 駄目だったわけか。

「あたしは、死ぬのかな。」

「かな、ではなく、そうです。」

 その瞬間だった。

「よっ、何してんのこんなところで。」

 あたしの友達の幼女が木の上から手を振ってきた。

 ただの友達であって、この計画の中に組み込まれた幼女ではない。

 しかし。

 特捜部の人間はそれが分からない。

 背中越しに、その友達に何か照準を向けたことを感じることができた。張りつめさせた神経が、微妙な雰囲気の変化を察知したのか。それともただの服がこすれ合う音が聞こえたのか。

「逃げてっ。」

 叫んでいた。

 そして。

 体を何かが貫いたのが分かった。

 その反動で膝を折りながら後ろへを無理矢理振り向かされる。

 特捜部の人間は、その無関係な幼女も殺そうと銃を構えている最中だった。

 が。

 銃を構えたまま。

 その特捜部の男は正面から倒れた。

 友達が、木の上で笑っている。

 ペストマスクを付けながら笑っている。

 気が付くと地面に倒れていた体のことを無視して、あたしは泣いていた。

 友達が首を傾げながらこちらに銃口を向ける。

「すごく、いいものなんでしょ。これ。」

 巫女の首だった。

「何がしたいの。」

「いいものならほしいじゃん。」

 あたしはすすり泣いた。

「あ、そ。」

「うん、そう。」

 友達は巫女の鼻を少しだけ舐めて微笑んだ。

「話の分かる友達がいて、嬉しいなぁ。」

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